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基調講演「オーダーメイド医療とバイオバンク」

ただいまご紹介にあずかりました中村です。先ほど麦島先生から紹介がありましたように、30万人の患者さんの協力を得て、DNA、血清バンクを作るとともに、それを応用して新たな医療を展開していきたいと考えています。このような大掛かりなプロジェクトを進めていくためには、一般の方の理解というものは欠く事ができませんので、我々が何を考えているのか、どのように研究を進めていこうとしているかを皆さんにお示しすることが重要だと考えこのような場を設けました。このプロジェクトは、このスライドにありますように文部科学省のリーディングプロジェクトとしまして今年度から発足しました。これは正式な名前ではありませんが、我々は分かりやすく我々の目指しているゴールを示すために、略して「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」と称しています。これから30分ほどかけて、このゴールがどこにあるのか、また、非常に重要である個人情報の管理に関してどのような点に配慮しながら進めようとしているのかをご紹介します。

このプロジェクトの正式名称は、「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」で、その略称は「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」です。このプロジェクトのゴールは、1つは、病気の詳しい原因を解明することです。今、原因がわかったようでわかっていない病気がたくさんありますし、また、全く治療法が見つからないような病気もたくさんあります。患者さんに協力いただいて病気の根本的な解明をめざすというのが1つのゴールですし、当然ながらこれを通して新しい診断法や治療法の開発を産学連携で進めていきたいと考えています。昨今「ゲノム創薬」という言葉が良く使われますが、ゲノムの配列を調べているだけで薬ができているわけではありません。当然のことながら、根本的な原因を見つけ、そのエビデンスにもとづいたかたちでの新しい薬の開発、あるいは診断法の開発が進むわけであり、このプロジェクトは、その基盤を作りだしていくためにも極めて重要です。3つ目として、本日のメインテーマでありますオーダーメイド医療があります。この中身に関しては後ほど詳しくご紹介します。4つ目に、これはまだ近い未来というわけではなく、かなり先になるかもしれませんが、我々がいったいどのような病気にかかりやすいのかということを知ることによって、個人個人がもっと自分の健康に責任をもつという時代がやってきて、病気の予防あるいは病気の重症化を防ぐために遺伝子の情報がより広く使われるようになると考えています。

プロジェクトの内容を簡単に説明します。我々が最も重要だと考えているのは、一般社会の方に研究内容と、そこから生み出される成果に対して十分理解を得ることだと思っています。30万人という数字は非常に大きな数字でありまして、その数字を考えると皆さんのどこかで血のつながっている方に協力をしていただくということになると考えられます。したがいまして、どのように研究をすすめていくか、あるいは成果をどのような形で社会に還元しようと考えているのか、あるいは個人情報に対してどういう配慮をしているのかということを皆さんに十分に理解していただく必要があると考えています。
当然のことながら、全くわけもわからず血液を提供していただくわけにはいきませんので、患者さんにこの研究の趣旨をちゃんと説明する必要があります。十分に説明したうえで合意をとるインフォームド・コンセント(用語解説>)の様々な手続きに関しましても、講習会などを設けて専任のかたをトレーニングし、その方を通じて、十分に研究を理解していただいた上で30万人の患者さんのDNA、血清試料を収集し、それをバイオバンクジャパンというかたちで医学の研究に応用していただくことを考えています。先ほどから、繰り返し申し上げておりますように、プロジェクトを進める上で我々が配慮しないといけない重要なことのひとつは、個人情報を厳正に管理することです。最終的なゴールとしては、遺伝子の解析あるいはタンパクの解析を進めることによって、それらを臨床のデータベースと比較することによって、病気の原因や薬の効果、副作用に関わる遺伝子やタンパクを明らかにし、新しい治療薬の開発、あるいは新しい診断法の開発につなげ、個人個人の患者さんにより適した治療法を提供するような情報の基盤作りに励みたいと考えております。

この研究をスタートする背景にあるのはゲノム研究の進展です。皆さんメディアを通してご承知のように、ヒトの30億塩基対からなる遺伝情報であるゲノム、これを私は生命の設計図と呼んでおりますが、この生命の設計図を我々は染色体という形で見ることができますし、その根本となる化学物質はデオキシリボ核酸(DNA)と呼んでいるものです。奇しくもこのDNAが二本鎖からできているという論文は、ちょうど50年前に報告されました。50年たった今、我々はこの遺伝暗号の並び、この遺伝暗号の文字A,G,C,Tがどのように並んで、われわれのゲノムの設計図をかたちづくっているのかという情報を手にしました。これから考えないといけないのは、この膨大な生命の設計図を利用して、どのような形でこれを社会に還元していくかということです。社会に還元するためには当然、社会の理解を得て、社会の協力を得て、このプロジェクトを進めることが必要です。30億の遺伝暗号文字が明らかになりましたが、平行して明らかになったのは、我々の遺伝暗号は、我々の姿かたちが違うのと同じようにかなり違いを持っているということです。その違っている箇所というのは、零点数パーセントですが、数でいうと300万から1000万箇所の遺伝暗号が個人個人で違っています。この遺伝暗号の違いというものをもとにして、われわれは病気というものを考え、それを通して新しい治療法を開発したり、新しい診断法を開発しようと考えています。

生命の設計図であるゲノムには、その何百万箇所に個人差があります。これを遺伝子の多様性と呼んでいます。この遺伝子の多様性、つまり、「ある場所にあるタイプの人と別の人がいる」、このような遺伝子の違いというものを略してSNP(スニップ)と呼んでいます。この遺伝子の多様性は遺伝子の働きの質的・量的な違いを生みます。遺伝子というのは、我々の姿かたちを決めている源になるわけですから、それが個人個人で違っていれば、当然我々の姿かたちが異なります。なぜ違うかというと遺伝暗号が微妙に違っているからです。それから、病気になりやすさの違いも遺伝子が関係するということが明らかになってまいりました。エイズではすでに科学的に証明されていますし、みなさん、インフルエンザが流行ったときに「わたしは、全然かからない」「Aさんは熱がでやすいのに、わたしは全然熱もでない」という人もおられます。ひょっとするとSARSが日本に入ってこないのは、日本人がSARSにかかりにくい遺伝子を持っているからかもしれません。いずれにせよ、いろんな感染症に関しても、個人個人でウィルスのかかりやすさ、かかりにくさ、あるいは細菌に対する症状の重さなどが遺伝子の違いによって影響をうけるということが明らかになりつつあるのです。
それから、もう一点は薬に対する効き方、副作用に違いがあり、よく効く人、効かない人、あるいは先ほど話にも出ましたように非常に副作用の強い方もおられます。このようなものに、遺伝子の違いが関係しているということが、次第に科学的に明らかにされつつあるのです。

こういうような話をすると、なかなか難しいかもしれませんが、みなさんは経験的に、「うちは何とか家系だ」とか、「何とか体質だ」というふうなことを聞かれたことがあると思います。すなわち、我々の病気というのは遺伝的な違いと環境の違いの複合的なもの、つまり遺伝的な要因と環境要因が重なって病気というものが発生します。今まで、これを科学的に解明するということはなかなか難しかったわけですが、ゲノムの研究が進み、その過程でいろいろな技術が開発されて、我々は個々人の遺伝子の違いを病気の背景に結びつけるということが可能になってきました。2000年からミレニアムプロジェクトという形で非常に大掛かりに我が国でも遺伝子研究が始まっています。この「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」はその発展型として非常に大掛かりな形で患者さんに協力していただいて、病気の根本的な原因をつきとめるとともに、いろいろな薬に関係する作用、副作用を明らかにしようとするものであります。ずっと、難しい話をしてまいりましたが、もっと別な角度から薬の副作用というものを考えて見ますと、われわれは日常、こういうことを体験していると思います。

例えば、お酒をこの会場におられる方に無理やり飲ませるとどういうことが起こるでしょうか。平気な人もいる、真っ赤になる人もいます。中には、気分が悪くなって動悸がしたり倒れたりする人もいます。なぜ、こういう違いがおこるのかというと、我々は、個々人間でアルコールを分解する能力、あるいはアルコールが入ったときに、頭の中で起こる変化が違う、その違う原因として、遺伝子の違いがあるということは皆さんご存知のはずです。アルコールを分解する酵素が作れなければ、我々は少しのアルコールでもアルコールの濃度が非常に上がってしまって、特異的な反応を起こします。そのように、アルコールでは経験して「私、お酒は飲めない」といって避けることを、薬ではしてこなかったのです。非常に一部ですが副作用が強く出る患者さんがいます。それが、実は振り返ってみると遺伝子の違いによって薬をなかなか分解できない人だということが明らかになりつつあり、副作用をとことんつきつめていけば、ある程度科学的な形で副作用を防ぐことができると考えています。皆さんが頭痛になると、いろんな薬を飲まれると思いますが、その時に、「私はこの薬が合う」とか「この薬を飲むと、どうもうまくいかない」という人がおられると思います。そのような場合でも、やはり遺伝暗号の違いによって薬に対する反応、あるいは薬を分解する能力が違うということがわかりつつあるのです。それをもっと大掛かりに解明して副作用を回避するような診断システムを作りたいと考えています。それからもう一点、病気になりやすい、病気になりにくいということを、遺伝暗号の違いで説明したいと考えています。遺伝子を解明することによって、今、治らない病気の原因をつきとめて、病気を治すような薬、治療法を開発したいということも、我々が考えている1つのゴールです。

病気のかかりやすさを、家の設計図と地震というもので考えてみましょう。家というのは、設計図に基づいて作られます。「設計図が完璧で、その完璧な設計図に基づいてしっかりとした家が作られる」。あるいは「設計図のどこかにミスがあってそれに基づいて家がつくられる」とします。手抜き工事じゃなくて、設計図に基づいてちゃんと家が作られているとしても、設計図自体にどこか手抜きがあったり、おかしなところがあったりすると、同じ震度の地震が来ても、びくともしない家もあれば、壊れてしまう家もあります。これが、我々の持っている遺伝暗号の違いと、我々が様々な形で体験するストレスと同じような関係にあるわけです。同じストレスがかかっても病気になる人もいるし、病気にならない人もいる。なぜかというと、この設計図(これがゲノムですけれども)の個人個人の微妙な違いが、病気に対しての強さを変えているからです。私達は、この同じストレスや環境で病気になったりならなかったりする原因を遺伝子のレベルで明らかにして、今原因のわからないような病気の原因を明らかにしようというアプローチを行いたいと考えております。

それから、繰り返しになりますがオーダーメイド医療というのは先ほど麦島先生の話にもありましたように、個々人に最適な予防法とか治療法を可能とする医療です。たとえば洋服で考えてみましょう。同じサイズの洋服をいろんな体型の人に無理矢理着せると、だぶだぶな人もいるし、窮屈な人もぴったりな人もいる。今の医療は、まさにこういう形で、ある診断がつくと、その診断に基づいて同じように同じ量の薬を投与するという形になっています。したがって、先ほど「何々体質」と言いましたように、ある薬は、ある患者さんには合うけれども、ある患者さんには合わないということがでてきますし、時と場合によっては非常に副作用がでたりします。これから目指す医療は個々の患者さんの病気がどういうタイプであるのかということを、オーダーメイドの服を着せるように、きっちり測って、個々の患者さんにぴったりした洋服を着せるように、ぴったりした治療を提供するというもので、それは遺伝暗号の違いを明らかにすることによって、一歩ずつでありますが、その方向に向かって進むことは間違いないと考えております。

私は、長くがんの研究に携わってきましたので、がんの例を一つ紹介します。あるがんが進行しますと、多くの患者さんが放射線治療、あるいは抗がん剤治療を受けます。治療を受ける段階で、その患者さんに対して、この患者さんには薬が効くか効かないかわかっているのかというとそうではありません。副作用がでるのかでないかもわかっておりません。そういう状態で何十パーセントだったら効きそうですよ、というような確率論で患者さんに情報を提供しています。あとは、患者さん、あるいは患者さんの家族が自分の判断で、「この確率だけどもどうしよう」、「治療を受けてみよう」、「受けるのをやめてみよう」という判断をされています。はたしてこれが、近代型の医療といえるのでしょうか?

個々の患者さんが知りたいのは自分自身、あるいは自分の家族がある治療法を受けた時、例えばがんの場合ですと放射線や抗がん剤治療を受けた場合に、副作用もなく元気に帰れるのか、あるいは効かなくて副作用で苦しんで不幸な転帰に終わってしまうのかを知りたいのです。当然ながら副作用が強いとわかっていれば、そのような薬を患者さんに投与しないというのは、当たり前のことです。その当たり前のことが、今まで出来なかったわけであります。遺伝子の情報を利用することによって、そういうものに対して我々は近づきつつあるという現状を知っていただきたいと思いますし、今日はこういう場ですので細かいことはお話しませんが、我々は、ある抗がん剤に対して効くか効かないかを予め予測するような診断法をすでに開発しております。そのような輪を広げていくことによって、「この薬をつかえば効く」、「この薬はこの患者さんには副作用を起こさない」、あるいは「この薬を使うと副作用を起こすから避けるべきだ」というような情報提供をしたいと考えております。

最終的なゴールはどういうものかといいますと、遺伝子の情報をICカードのようなものに保存し、このICカードを持って患者さんが病院に受診する。病院ではいろいろな検査をして診断をつけて薬を出すわけですが、その薬とその患者さんの体質、つまり遺伝子の特徴が合うか合わないかを調べて、この人は副作用を起こしそうであれば、その薬を出すのをやめなさいというような情報をコンピューターが指示して副作用を回避するような治療法の確立をめざしたいと考えています。これは決して夢物語でも遠い将来の話ではありません。一歩ずつ、この現実化に近づきつつあるのです。

少し細かい話になりましたが、では具体的に我々がどういう風に進めようとしているのかをお話します。先ほど言いましたように、適正なインフォームド・コンセント(用語解説>)をとるもとに、血清試料・DNA試料を収集するということは、絶対にきっちりしないといけないことです。また、個人情報を厳正に管理するということも、このプロジェクトを進めるためには不可欠です。

まず患者さんに対してどのようにインフォームド・コンセント(用語解説>)をとるかですが、我々はこのプロジェクトに対して、しっかりと理解して患者さんにちゃんと説明できるメディカルコーディネーターという方を養成するために、これまでにすでに2回講習会を行っており、もう一度来月に行う予定であります。これは講習会の風景でありますが、皆さん熱心に聞いて、このプロジェクトの内容を理解するとともに、どのような形で患者さんに説明していくかということを学んでいきます。特に配慮している点の1つはこのプロジェクトに参加するかどうかは、患者さんの自由意志であるということです。決して、強制するものではなくて、患者さんが、このプロジェクトの内容を十分理解されて自分はこのプロジェクトに協力しようと思われた方だけに参加していただきます。当然ながら、やっぱりどこか不安だから協力したくないという方には、協力を自由に断る権利があります。二つ目の重要な点は、断わったことによって不利益を受けないということを強調して説明していただくことです。それからもう一点、患者さん個人個人には、解析の結果をお知らせすることはないということを強調いたします。これは、個人情報の管理を厳正にするという観点でこのような形をとっております。患者さん自身には、同じ病気で苦しんでいう方、あるいは、将来同じ病気にかかるかもしれない我々の孫、子のためにドネーション(見返りなき提供)という形で協力していただきたいということです。何も我々は協力に対してお金を払うわけではありませんし、情報を還元して個人個人の患者さんに役立てるというわけではありません。当然ながら途中で気持ちが変わられることもありますので、自由に同意が撤回できるようなシステムにしています。

講習会の現場をもう少しお知らせします。これは、実際に情報を入力するコンピューターを使う実習の場面です。これはロールプレイといいます。このような形で約4―5時間かけて、実際に、インフォームド・コンセント(用語解説>)をとる側ととられる側の実習をして、しっかりとどのような形でインフォームド・コンセント(用語解説>)とるかということを学んでいただきます。その段階で様々な疑問などが提示されますが、これは我々の方で、まとめてその問いに関してはこのように答えるのが正しい答え方ですということを、皆さんが情報を共有できるようにネットワーク作りを今行っているところです。

簡単に試料の流れをご説明します。先ほど言いましたように、患者さんに対して、まずメディカルコーディネーターが説明し、インフォームド・コンセント(用語解説>)の取得をしていただきます。ここで、同意をえられれば採血し、個人情報を匿名化した上で、血液サンプルから血清、あるいはDNAが精製され、私ども東京大学医科学研究所のバイオバンクの中に管理・保管されます。次に、理化学研究所の遺伝子多型研究センターでSNPという遺伝子多型解析研究を行うことを決めておりますが、これはバンクとして日本の医学研究を支えるという機能ももっていますから、公的な研究機関、あるいは企業の研究機関でも、その研究内容が適正であれば企業に対しても研究資材を提供して、より早く病気の原因を解明し、それを通して薬の開発、診断法の開発を進めるように努めたいと考えています。

簡単に個人情報保護策のいくつかをお示しします。個人の情報を入力するというのは誰でもできていいというものではありません。誰でもコンピューターを開けることができると問題がありますので、このようなシステムを使いまして、ICカードにコンピューターにアクセスできる方の指紋情報を入力しておきます。実際、コンピューターを開く方が指紋をおきますと、この機械の中でICカードに入力されている指紋情報と、指から読み取られる指紋情報がマッチングされ、合っている場合にだけコンピューターを開くことができるというシステムになっています。

それから、盗難に対する備えとしましては、例えば、データを入力中のコンピューターがどこかに持っていかれるとします。その場合には、コンピューターを開こうして何回か不正な操作(指紋照合の不一致)をしますと、このハードウェアの中に記録されている全てのものが消え去ります。昔、スパイ大作戦で情報を誰かが入手しないように、煙のごとくテープレコーダーが壊されるというものがありましたが、我々は不正アクセスが起こると、中のハードウェアの記録そのものを消してしまうということに配慮しておりまして、個人情報は決して外にもれないようなしくみにしています。

当然ながら、個人情報の取り扱いに関しても、別途非常に厳重な管理をすることを考えております。各病院、医療機関では、個人情報と匿名化した暗号と、それぞれの患者さんの臨床情報のデータベースが作られます。この中から、個人情報(どこどこのだれだれさんという情報)だけを切り離した匿名化番号と臨床情報だけが全体的な臨床情報データベースとして保管されます。
血清やDNAには個人を識別できるような情報は全く使わずに、この匿名化暗号Xがついたままで病院の外に出て行きます。したがって、病院の外には、いっさい、どこのだれであるかが分かるというような情報は出ないような仕組みになっております。そして、バイオバンクに血清とDNAが集められます。研究機関から依頼があり、バイオバンクから試料を提供する場合には、もう一回番号を組替えて暗号化システムを複雑にして、どこのだれの遺伝暗号がどうだというようなことがわからないような仕組みにしています。

繰り返して言いますと、匿名化と乱数化で2回暗号化を行うということと、個人を特定する情報と個人の遺伝子情報が絶対同居しないことによって個人情報が保護される仕組みになっています。また、公表されるのは、ある遺伝子を有する集団の特徴的なものでありまして、個人個人の方がこのような遺伝暗号を持っているという情報は一切外に出ません。繰り返しになりますけども、医療機関で、臨床のデータベースが管理され、その中から個人情報を切り離したものだけが統合データベースに蓄えられます。バイオバンクにあるのは、暗号と血清あるいはDNAサンプルですから、個人を特定する情報とDNAが結びつきません。研究機関には、もう一回乱数化した番号が出てきますので、どこかが破られても個人の遺伝子の情報と個人のどこどこのだれだれという個人識別情報がつながらないような形になっています。実際に医学的に重要な情報を解析しないといけませんが、それはデータ管理バンクに移されて行われます。この段階で、この統合データベースの情報と乱数対照表と解析した情報が集まりますが、ここには個人の識別情報は来ませんので、例えデータ管理バンクが破られたとしても個人の情報がどこかに出て行くということはありません。研究機関には、それぞれの患者さんの非常に詳細な臨床情報を渡すわけではありません。例えば「糖尿病でこの薬を使っている」程度の情報をもとに試料を提供しますので、細かい臨床情報が研究機関に出て行くというわけではありません。

現在、プロジェクトの仕組みとしましては、推進委員会が文部科学省の中に設置され、豊島久真男先生が委員長です。その下に我々現場で働く実施会議が設けられ、実施会議のもとに協力医療機関、それからバイオバンクジャパン、研究機関などが協力するような形でプロジェクトを推進することになっております。

プロジェクトの準備進行状況ですが、すでに倫理委員会は半数以上で承認されています。メディカルコーディネーターを養成する人数や参加病院数はここに書かれております。すでに日本大学では先週の初めから、患者さんに対するインフォームド・コンセント(用語解説>)とサンプルの収集を始めております。そして、他の医療機関におきましても、7月から開始予定で着々と準備を進めているという状況です。

最後に責任者として申し上げておきたいことがあります。これは、プロジェクト全体の意志ではなく、私個人の考えであることを断った上で紹介させていただきます。このような遺伝子の違いを研究していくゴールとして、私は光の部分だけをこれまで申し上げてきました。病気の原因が解明されて、それを通して薬が開発される。あるいは、病気のリスクを判定して、それが予防につながる。あるいは、その遺伝子の情報を利用することによって、薬を効率的に使用し、副作用を回避することができるというような光の部分だけを申し上げました。ところが、皆さんご存知のように、遺伝子情報利用については、我が国では様々な形で問題が存在しています。その影の部分として考えられる問題として、社会保険に対して遺伝子の情報が使われて社会保険に入るのが不利になる可能性もありますし、遺伝子の情報によって様々な差別が起こりうる可能性があります。多くの方たちは、影の部分だけをとらえて、遺伝子研究そのものがけしからんとおっしゃいますが、私個人としましては、そうではなくて、我々がつとめるべきことは、光をいかに大きくして、いかに影を小さくすることではないかと考えております。

ことさら、遺伝子が違えば差別が起こるという考え方には私は反対です。我々は、皆同じだから平等であるという教育を多くの方が受けています。果たして我々は皆同じなのでしょうか。決してそうではないはずないのです。姿かたちが違いますし、いろいろ違います。本当は違っているのに、違っていることを認めようとしないからおかしなことが起こるのではないかと思います。どうして遺伝子が違っているからといって我々は差別をしないといけない、あるいは差別を受けないといけないのか。なんらかの病気になるかもしれないということは、我々皆がもっている問題であって、決して一部の人たちが持っている問題ではありません。この遺伝子の多様性というものを通して私が皆さんに申し上げたいのは、この遺伝子が違うということを、いわれなき社会差別をなくすためのいい教材にしていただきたいということです。違っていてもいいじゃないかと、違っていることを認めあうことから、問題の解決がスタートするのではないかと思います。違っているから差別を受けるのだ、だから遺伝子の研究は危ないのだと言っていても差別という問題を我々は回避することができません。我々が研究しなくとも、世界のどこかで研究が進んで、必ずそういう情報がリアルタイムで我々のもとに入ってきます。我々が考えないといけないことは、この遺伝子の情報をいかに社会に役にたてて、危険なことを防いでいくことではないでしょうか。この遺伝子の多様性を研究する研究者の一人として、やはり皆違っていてもそれを認め合おうという教育をしていただきたい、あるいはそういう教材としてこの遺伝子の多様性という問題を理解していただきたいというふうに切に望んでおります。

それからもう一点、メディアの方もたくさんおられますが、メディアは、医者とか研究者は悪いものだから、患者さんを利用して、自分の出世とか自分の名誉だけを追求しているというかたちでとりあげて、面白おかしく報道します。私は、自分が臨床医として働いた経験、あるいは実際、今、研究にたずさわっている人間として、決して我々は患者さんと対立する立場にはないということを強調したいのです。今日は、ALS協会の患者さんにも来ていただいていますが、本当に患者さんが何を求めているのか、ベッドで苦しんでいる人は何を欲しているのかということをもう少し理解した上で、様々なことを考えていただきたいと思います。私は、この研究を通して患者さんと医療に従事している方、あるいは我々医学研究者が連合軍を組んで病気と対立するのだというような姿勢を作り上げていく一歩としたいと考えております。一部の不届き者がいたことは否定しませんが、今まで志の高い研究者がたくさんおられ、真剣に病気の解明にと研究に取り組んでしているにもかかわらず、このような構図でとりあげられてきました。このような対立の構図では、本当にベッドで苦しんでいる人、あるいは今まさに死を迎えようとしている人にとっては何の救いにもなりません。我々がすべきことは皆が手に手をとりあって、病気に対決していくのだというふうに私は信じておりますのでこれを強調したいと思います。

さきほどから申し上げましたように、このプロジェクトは、社会の多くの人に認知して理解を得るということが非常に重要なことでありますので、我々はビデオも作りましたし、このような形でポスターを作っております。私が最後に申し上げたいのは、同じ病気で苦しんでいる方、あるいは我々の子供や孫のために是非とも協力していただきたいということです。我々は個人情報の管理にベストをつくしますし、研究に対しても最大限の努力をします。是非とも趣旨をよく理解していただいて自分たちの気持ちを未来につなぐという形でこのプロジェクトを発展させていきたいと考えております。いろいろ批判の目でみられる方はおられるとは思いますが、やはり病気というものをなくし、病気で苦しんでいる人たちを一日も早く救うためにも、このようなプロジェクトを推進していきたいと考えておりますので、是非ともご理解たまわりたいと思います。どうもご静聴ありがとうございました。
 
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