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基調講演「ひとりひとりの体質に応じたオーダーメイド医療とバイオバンクジャパン」

拡大画像 抗がん剤という言葉が、先程から何回か出てまいりました。日本医大の江見先生から紹介がありましたように、私は外科医をやっておりました。もう二十数年前のものですが、このスライドの真中に立って手術をしているのが私です。オーダーメード医療という言葉を先ほどから使っておりますが、私が抗がん剤の使い方に疑問を感じたのは、このように医者として働いているときです。
拡大画像 がんがある程度進行しますと、もうほとんど選択肢がなく、抗がん剤を使う、放射線治療をする、あるいは何もしないで様子を見る、の選択肢しかありません。もし、がんを治すというチャンスに賭けるのであれば患者さんは抗がん剤治療を受けるという治療を選択せざるを得ません。ところが皆さんご存知のように、今の抗がん剤の治療というのは、どちらかと言うと効く人のほうが少ないという状況です。非常によく効く薬が出てきましたけども、まだ、一部のがんに限られています。効果を前もって予測することはできず、わずか一部の方が抗がん剤の利益を得て、多くの方は副作用で苦しんで最後は苦しみながら亡くなっていくという経過を経ます。これまで医療側が提示できたのは、「この薬を使うと、何人に1人ぐらいは効く可能性があります。何%ぐらいです」と確率情報です。
私も、3年少し前に母親を大腸がんで亡くしました。その前に、果たして徹底的に抗がん剤で治療するかどうかという選択に迫られ、最終的には父親が、自分のそばに少しでも置いてほしいということで、抗がん剤の徹底的な治療というのはしませんでした。母親は亡くなりましたけども、私の心の中ではまだ後悔が残っております。ひょっとすると、たとえ副作用で苦しんでも、我慢していれば、今もまだ元気でいるのじゃないかという気持ちをひきずっています。私自身、そうであるように、がんでご両親とか家族の方を亡くされた方は、いろんな複雑な思いがあると思います。
拡大画像 われわれがすべきことは、ある患者さんにとって抗がん剤が効く確率が0%か100%かということを、できる限り高い精度で提供することだと考えています。自分が、あるいは自分の親が、自分の子供が抗がん剤、あるいは放射線で治療を受けなければならない時に、ほぼ100%の確率で元気になるのか、あるいは副作用で苦しむだけで終わってしまうのかということを、できるだけ高い確率で、高い精度で、患者さんに提供するのがわれわれの責務であると思っております。
二十何年前に思っていたことが、長い間出口が見つからずに「どうしてなんだろう」と思い続けてきましたが、最近、先程紹介したゲノムの研究を通して、効果を前もって予測ができるのではないかという兆しが見え始めました。それを紹介します。
拡大画像 ある薬の例をもとに紹介します。これは1年前に販売されたイレッサという、肺がんに対して新しく開発された治療薬です。この薬は、効く人には驚くほどよく効きます。ここに非常によく効いた患者さんの例を示します。左は薬を飲む前、右は1日朝1錠ずつ合計わずか14錠の薬を飲んだあとの胸のレントゲン像です。ご覧になって明らかなように、左の写真の左側(右の肺)は真っ白です。これはがんに加えて痰も一杯溜まっていているためで、この患者さんは毎日500tも600tも痰を吐きながら、酸素ボンベを抱えて入院しました。ところが、わずか14錠服用したあと、肺はご覧になって明らかなごとく、全く違う様相を示しています。実は、遠くの方はちょっとご覧になりにくいかもしれませんけど、この白い部分ががんの塊ですが、これが完全に消えています。
拡大画像 この薬は一部の患者にはこのような形で非常に劇的な効果を示し、10人に3人の肺癌患者さんはがんのサイズが半分以下に小さくなると報告されています。ところが、ここにおられる方はご存知かもしれませんけども、この薬を1,000人に投与すると、確かに300人には効果がありますけども、10人は命に関わるような強い副作用を示して亡くなります。このような状況で、「この薬の販売をやめてしまえ」と言うと、この薬が効いた患者さんから薬をもぎとってしまうことになります。しかし、このまま放置すると、副作用で亡くなる患者さんが増え続けるということになってしまいます。
今までの医療では、このようなものに対して答えを出すことができなかったわけです。先程言いましたように、遺伝暗号の違いを調べることによって、副作用を予測するということができるかもしれないというデータをお見せしました。では、効く、効かないというのは見極められないのでしょうか?実は、可能かもしれないことを最近明らかにしつつあります。それも、やはり、ゲノム研究を通していろんな情報を得、また新しい技術を利用して、それぞれの患者さんのがんの性質の違いを、次の図のように視覚化して見るということができるようになったからです。
拡大画像 上の二つは2人の大腸がん、下の二つが脳にできた腫瘍の遺伝子の働きを、ここに示すように色に変えて見る方法をお示ししました。この2人の大腸がん、2人の脳腫瘍は互いに非常に似たパターンを示しますけれども、脳腫瘍と大腸がんでは全く違います。では、この大腸がん2症例は全く同じかというと、そうではありませんで、右下にお示ししたように、大腸がん2症例で同じ色の部分を黒で消したのが右下のパターンです。ここに黄色い色が二つあり、同じ場所のもう一人の大腸がんでは、ここに赤い色が二つあります。この黄色と赤というのは、遺伝子の働きが違っていることを意味しているわけで、数パーセントの遺伝子の働きは、同じ大腸がんであっても2症例では微妙に違います。

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