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基調講演「ひとりひとりの体質に応じたオーダーメイド医療とバイオバンクジャパン」

   
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日本では生物学をきっちりと教えないので、唐突にこういう話が出てくると難しいかもしれませんが、30億の遺伝暗号文字の中に3万箇所から4万個所ぐらい遺伝子という単位が存在しています。遺伝子は何をしているかというと、タンパク質という物質を作る情報を担っています。でんぷんを食べたときに分解するアミラーゼとか、ホルモンとか、私たちの体を作っている多くの物質がタンパク質なのですが、タンパク質を作る情報を持っているのが遺伝子という単位です。
一つの遺伝子から数種類のタンパク質が作られると考えられていて、体内全体では10万から20万種類のタンパク質があると考えられております。この遺伝子には、どんなタンパク質をいつ、どこで(たとえば肝臓や心臓)、どのくらいの量作るのか、という情報などが刻まれているのですが、このような情報に関してはまだまだわかっていない部分が多いのです。個人個人で遺伝暗号が違いますし、ストレスがかかったときに多様なストレス反応がおこるように、環境的な要因などによっても遺伝子の働きは違ってきます。つまり私たちが親から子へ受け継ぐ遺伝暗号の違いと、置かれているさまざまな環境によって、遺伝子が作り出すタンパク質の性質や量が違ってくるのです。このタンパク質の種類や量の違いが病気のおこりやすさにつながったり、持って生まれた体質の違いなどにつながってきます。
   
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遺伝暗号が違うということは、環境要因を別にしてもいろいろな違いを生みます。遺伝子が違うと遺伝子によって作られるタンパク質も微妙に違ってきます。その微妙な違いが私たちの外見や、100%ではありませんが性格の違いなどの表現系にかかわっていますし、病気に対する罹りやすさ、薬の効きやすさ、あるいは副作用の出やすさなどの体質の原因になっているのです。
みなさん病院へ行って薬が合わないと、『ああ、あなたはアレルギー体質ですね』というような言われ方をしたことがあると思います。また、この薬は私に合う、あるいは合わないという経験をしたことがあると思います。それは、実は微妙な遺伝暗号の違い、あるいは置かれている環境によって起こる遺伝子の働きの違いによって引き起こされているのです。
   
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遺伝暗号の違いによる影響について一つ感染症の例を示します。HIVというのはエイズの原因となるウィルスですが、実は遺伝暗号の違いによってエイズウィルスに感染しにくい人がいるということがすでに科学的に証明されています。エイズのウィルスが私たちのリンパ球という細胞の中に入るときにはCCR5という接着剤にくっついて入ってくるのですが、エイズにかかりにくい人がいるということを私の友人でもあるマイケル・ディーン博士が6年がかりで研究を進めた結果、結局エイズにかかりにくい人はこの接着剤がこわれているということを見つけました。
このように、ウィルスに感染する、感染しにくいというのもやはり遺伝暗号の違いが関係していますし、最近SARSがはやりましたが、SARSも遺伝暗号の違いがかかりやすさに関係しているのではないかという報告もすでに出ております。以上の例からも、病原体が体内に入ってくる、入ってこないだけではなくて、入った場合でもその個人個人の違いによって感染症を起したり起さなかったり、あるいは当然ながら重症度にも影響してくるということがお分かりいただけると思います。
このようなことがわかってまいりますと、実は薬の開発にもつながります。つまりエイズを例に取るとエイズウィルスがこの接着剤にくっつかなければウィルス感染症は起こらないわけですから、この接着剤にふたをするような薬を作ろうということで、現在すでに開発された薬が試されているところです。このようにウィルス感染症であっても原因がわかればそれに応じて新しい薬を作るということが可能になってくるのです。
   
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薬の話を少し集中的にお話します。 みなさんすでにご存知だと思いますが、すべての人に同じ種類の同じ量の薬を服用してもらっても、全員に効き、副作用がないということはありません。薬を使った場合、有効なのは一部の患者さんであり、一部の患者さんにはとてつもなく強い副作用が出て、それが生命の危機をもたらすことがあります。
現実的に病院ではどうしているかというと、合わなかったら薬の種類を変える、あるいは量を変える、といった経験的な対応をしています。みんなにこの赤と黄色のカプセルを1カプセルずつ渡していればうまく合うのかというとそうではなくて、効かない場合は量を増やしたり減らしたりする、あるいは薬の種類を変えるという対応をとっています。しかし、対応策をとろうとしても、もうすでに取り返しがつかなくて命を落としてしまうという方もおられるわけです。このような不幸を医療の現場からなくしたい、それにはどうしたらいいのかという観点から、ゴールの一つとしてこのような副作用を避けることのできる医療体系を作りたいと考えております。
   
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薬というとなかなか馴染み難いですが、お酒というものに置き換えるとみなさんすっと理解してもらえると思います。この会場におられる方にみんな同じだけお酒を飲ませると、きっとひっくり返る人が出てくると思います。平気な人、真っ赤になる人、吐いてしまう人、自分が何を言ってるのかわからなくなる人もいるでしょうし、泣き上戸の人もいるでしょうし、笑い上戸の人もいるでしょう。お酒が入ったときでもこのようにいろいろな反応があります。極端な場合には命を落とします。
今朝新聞を読んでおりましたら、ウォッカの飲み比べ大会をして、3.5リットル飲んだ人が急性アルコール中毒で亡くなったという記事がありました。べつにウォッカを3.5リットル飲まなくても、3.5ccでもドキドキして倒れる人もいるわけで、そういうものはやはり遺伝暗号の微妙な違いでアルコールを分解する力が変わってくるから起こる症状なのです。薬の場合も同じで、同じように薬をのんでいても薬を分解する力というのは個人個人みんな微妙に違うわけで、そういうものが副作用へと反映されて副作用が強く出る人もおられるわけです。
   
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20世紀の医療は確かに進みましたが、今までお話したようにまだレディーメイド医療の枠を超えてはいません。いろんな薬が出来たけれども、あるパターンの診断がされると、服に例えるならSかMかL程度しかなくて、窮屈だったり、だぶだぶな人も出てくる。
それに対してオーダーメイド医療というのは、患者さん個人個人の病気の状態あるいは体質というものを科学的エビデンスにもとづいて正確に把握し、副作用がなく効果があるという、ひとりひとりにぴったりとした治療を提供していける医療だと考えておりまして、私たちは、このような研究を通して社会に貢献をしたいと考えております。
   
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薬の副作用予測に関し、実際こういうことができるという一例をお示しします。これは腎臓の移植を受けたあとに免疫を押さえる薬を服用して心臓に強い副作用を起こされた人がどんな原因なのだろうかということを調べた結果です。
話が飛んで難しいかもしれませんが、あるXという遺伝子を調べると同じ場所にGとCという二つのタイプの遺伝暗号が見つかりました。このスライドに示しますようにGG型とGC型の患者さんでは28人のうち1人も心臓に副作用を示しませんでした。ところがCC型の患者さんは44人のうち10人が強い副作用を示しました。別のYという遺伝子を同様に調べてみると、CC型とCT型の患者さんでは30人中1人も副作用を示さなかったけれども、TT型の患者さんは42人中10人副作用を示していました。この二つの遺伝子の情報を組み合わせてみると、Xという遺伝子がCCタイプでYという遺伝子がTT型の人が30人、その他の人が42人いました。そしてみなさんご覧になって明らかなように、その他の42人は1人も副作用を示さなかったけれども、こちら側の赤で示した30人は3人に1人の割合で心臓への重い副作用を示したということがわかりました。まだ0対100の精度ではありませんけれども、明らかに遺伝暗号の違いが、ある薬に対する副作用を起こしやすくしているということがわかります。
これは免疫を押さえる薬ですから、免疫を抑えるということをまず大切にしなければいけませんが、そのために心臓がだめになって命を落とすということがあってはならないわけです。したがってこの薬を使った場合に、この遺伝子のタイプの人には心臓に注意を払いながら経過観察をしていくということで、副作用で患者さんが命を落とすということを防ぐことができます。
このような形で、遺伝子によって副作用が100%わかるわけではありませんけれども、遺伝子を突き詰めていくことによって少なくとも半分ぐらいの副作用は事前に予知して回避することが出来るようになると私たちは思っていまして、多くの患者さんに協力を求めてこういう問題を解決したいと考えております。

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