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皆さん、こんばんは。日経BP社の宮田と申します。私は大体、もう25年ぐらいバイオテクノロジーの報道に携わっております。今回のプロジェクトに関しては、ややジャーナリズムを逸脱しておりますけれども、推進委員という形でこのプロジェクトが正しく進むように努力したいと考えています。
ここで私たちが皆さんと一緒に作り上げたいものはたった一つでありまして、これは患者本位の医療というものを、バイオテクノロジーの研究に基づいて実現したいと考えています。今日は私のほうから、これを使った産業的な動きも含めて、皆さんに情報を提供したいと考えています。
今年の4月に、ヒトゲノムの解読が完了しました。つまり私たちの遺伝子配列情報というのはすべて今、コンピュータの中に入っておりまして、インターネットで見ることができます。しかし、これをどうやって私たちの福祉とか幸福のために役に立たせるのかという事については、いろいろなことが今、全世界で議論されているところなのです。
一つだけ確実なのは、これは単なる研究者のバイオテクノロジーとか生命科学の研究だけでは、その成果を皆さんに還元することはできません。むしろ倫理学や、社会学、経済学、あるいは保険のシステムなどの社会的な動きと、このような技術革新が一緒になり、なおかつ皆さんの理解を得て初めて、社会に還元できるのだろうと考えています。
そのようなコンセプトを今、ヒューマンサイエンスというふうに、私どもは呼ぼうと考えています。今回のオーダーメイド医療実現化プロジェクトというのも、そういった科学だけではなくて、社会の協力をも必要とするヒューマンサイエンスのプロジェクトだと、私は位置づけています。
先ほどの大西先生のご説明にもありましたけれども、個人の遺伝情報の違いによって個人個人に最適な医療を提供するというような研究開発が、今年から、わが国で世界に先鞭を切って始められました。後ほどお話ししますけれども、先行しておりますのはアイスランドだけでありまして、そういう意味ではわが国は2番目です。これだけ大規模な、研究を国家を挙げてやっているのは、日本が2番目であるということを、ぜひご理解いただきたいと思います。
ちょっと用語に混乱がありますのでここでご説明申し上げますけれども、同じ内容をさしてテーラーメイド医療という場合もありますし、パーソナライズド・メディスンという場合もありますし、個人ごとの医療という場合もあります。最近私たち日経BP社では、個の医療と言い始めております。いずれにしろ、個人の遺伝とか環境的な差に基づく医療、患者本位の医療を実現しようということが目的です。
患者本位の医療が実現する場合、どんな恩恵があるのかというふうに考えますと、一つは先ほどから先生方がご指摘なさっていますけれども、副作用の防止というのが可能になるだろうと考えています。それからもう一つは、体質に合った処方や医療の提供というものが、可能になるだろうと考えています。
それからこれは産業サイドですけれども、医薬品の開発コストの削減が可能になります。これだけでは単に製薬会社がもうけるだけじゃないかと、皆さんおっしゃるかもしれませんけれども、医薬品のコスト、価格を下げることも可能になるだろう、つまり皆さんが同じ医療費を払っても、様々な医薬品の供給を受けることができるようになると考えています。
それからもう一つ、今もっと重要な問題は、医薬品の開発コストが100億円、しかも12年ぐらいかかるようになってしまいますと、患者さんが少ない病気に関しては投資が回収できないので、大手の製薬企業がどんどん開発をしなくなってきている、ということです。そういう意味では、このオーダーメイド医療実現化プロジェクトを通じて医薬品の開発コストが下がれば、今まで治療法のなかった、患者さんが少ないような病気でも、医薬品の開発が可能になるだろうと考えています。したがって安全で効果のある新薬の開発というものが加速されてくるだろうと考えています。
また長期的に見た場合、医療の手立ては何も医薬品がすべてではないだろうと考えています。私たちが体質をきちっと理解することによって、食生活や生活環境といったライフスタイルを変えることができるようになることで、成人病、生活習慣病の発病までの時間を遅らせることが、相当程度できるようになるだろうと考えています。こういったことは、多分このプロジェクトから出てくる科学知識を社会の皆さんが咀嚼をして、自分のライフスタイルを変えることによって可能になるだろうと考えています。むしろ、私はそちらの効果のほうが、実は大きいのではないかと考えています。
これが今始まっておりますオーダーメイド医療実現化プロジェクトの概要です。5年間で200億円、皆さんの国税をこのプロジェクトに使わさせていただきます。したがって、皆さんはぜひ、スポンサーとして私たちの活動をチェックしていただきたい。もっと働けとか、もっと情報を開示しろというお言葉を、ぜひいただきたいと考えています。
この会場の中にも実際に服用していらっしゃる方がおいでと思いますけれども、抗コレステロール血症剤というのがあります。動脈硬化を治療する医薬品だと言われていて、三種類の薬があるのですが 同じ3種類の医薬品を飲んでも、遺伝的な差によってはHDLコレステロールという善玉コレステロールが下がってしまう、むしろ治療よりも悪化してしまう人がいるというようなことが分かり始めてきています。私たちは体質ごとに合った医薬品の提供というものが、もっと確実なものにならなければいけないだろうと考えます。
直近の問題は、やはり巨額の医療費が日本で無駄に使われているだろうと思われる薬害による、薬の副作用による治療費です。私たちはこれを何とか削減して、不幸な副作用の発生も、無駄な医療費の発生も防がなければいけないだろうと考えています。私はオーダーメイド医療実現化プロジェクトの最初の効果というものは、こういったところに表れてくるのではないかと考えています。
実は今、現実問題として医薬品の研究開発費がどんどんどんどん上がる一方、新薬はどんどんどんどん出なくなっています。これが、先ほど皆さんに申し上げたとおり、患者さんの比較的少ない疾病に関しては、どんどん手抜きが行われている状態を招いています。例えば、今世界のトップ10の巨大製薬会社の中で、感染症の新薬を開発している企業はたった1社になってしまっています。
今や薬剤耐性の結核や、熱帯の地方ではマラリアという問題が実際あるのですが、開発コストの高騰によって企業がなかなか研究開発にインセンティブを感じられない状況を招いています。私たちはオーダーメイド医療の実現化プロジェクトによって、この医薬品の開発コストを下げることができれば、より多くの患者さんたちを救うことができるようになるだろうと考えています。
臨床試験をするときに、あらかじめ遺伝的な情報の差によって、効く患者さんだけを集めれば研究と臨床試験の期間とコストを下げることが可能になるだろう、それから臨床試験に参加していただく患者さんにとっては、自分が効かないのに、新薬の単なるモルモットになるというご迷惑も少なくなってくるだろうと考えています。
実際の動きの一端をご紹介しますと、オーダーメイド医療の先駆けの薬として、現在グリベックという薬がわが国でも発売されております。 この薬は通常96ヶ月かかる臨床試験から新薬の製造承認申請までの過程が32ヶ月で終わってしまった薬です。これはまさに、オーダーメイド医薬というものが、臨床開発の期間と費用を大幅に削減するということを証明しています。
また、この11月4日、正確にはアメリカ時間の2003年11月3日にアメリカの食品医薬品局という日本の厚生労働省にあたるところが、遺伝的な多様性の情報に基づいて新薬を開発しましょう、それにあたっては、このようなデータをつけ加えたらいいのではないかという指針を出してきています。これはまさに、本格的にオーダーメイド医薬というものが実用化をしようということを、米国政府が表明したものだと考えていいだろうと思います。
実際のところ、もう世界中大手企業はこの方向に向かっています。ところが、残念ながら日本ではエーザイという企業1社のみが、こういったファーマコジェノミクス・ワーキンググループという、オーダーメイド医療を実現化しようという業界団体に参加してるだけにすぎません。ですから、そういう意味では日本の製薬企業の意識は、まだ低いだろうと考えています。
今回のこのプロジェクトには、日本の企業の何社かがすでに参加を表明しております。このようにこのプロジェクトを通じて、日本にオーダーメイド医薬の開発を誘引するようなことにならないかと、私は期待しております。
現実に、例えばアイスランドでは全国民のカルテデータを実用化しようDNAを集めようということが行われています。しかもその実用化プロジェクトをベンチャー企業1社にゆだねるという法律を通しております。
現在アイスランドの国民は28万人いますけれども、10万人以上の国民のDNA収集を終えているところです。
私たちの今度のオーダーメイド実現化プロジェクトは30万人ということですから、アイスランドの国民全部の規模に近い形の研究開発を進めようとしているわけです。
実用化もこのデコードというアイスランドの企業では、世界の8社の製薬企業と提携をして始まってきています。
一方でこのような遺伝情報の実用化に当たっては問題ももちろんあります。
そのひとつが法の不整備です。
日本においては個人情報保護法というのが、医療情報に関しては触れないで成立しております。ここに関しては皆さんと議論をして、きちっとした法律を創り、皆さんの遺伝情報とかプライバシーを守るような法体系を、一刻も早く作らなければいけないだろうと考えています。
法の整備の他にも多くの課題があります。社会保険制度と医療保険の制度とオーダーメイド医療とをどうやってマッチングさせるかというような議論も、これから必要になります。
最後に皆さんに申し上げますけれども、このオーダーメイド医療実現化プロジェクトというのは、オーダーメイド医療を完成するプロジェクトではなくて、オーダーメイド医療を皆さんと一緒に、研究者、医療関係者、そして皆さんと一緒に作り上げようということを始めるプロジェクトであるということを、ぜひご理解いただきたいと思います。どうも、ご静聴ありがとうございました。
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