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「目の前にあるオーダーメイド医療」


ご紹介ありがとうございました。皆さん、こんばんは。理化学研究所の大西と申します。研究者は、皆さんから見ると一番見えにくい存在だと思います。今回はできるだけ皆さんに、研究者といわれる者が何を考え、何を使って、どういう方向を目指しているのかを、少しでも分かっていただくように説明させていただきたいと思います。
実際に患者さんが病気で入院された場合などには、先生や、看護師さん、そして医療スタッフの方々と共に病気と闘っていくことになるのですが、今回のプロジェクトでは、その他に、ここに小さく書いてありますが、ちょっと見えにくいので拡大して見てみますと、ここに、研究者と呼ばれる者がいます。

わたしたちの研究の目的といいますのは、病気のかかりやすさ、薬の効きやすさ、副作用の起こりやすさというものが、何が原因で違ってくるのかということを調べていくわけですが、今現時点では、「体質」という言葉ですまされています。「あなたはこういう体質ですよ。」「ああいう体質ですよ。」と言われるのですが、「体質」という言葉は、一番簡単に使われている言葉です。でも実際に、「じゃあ体質って何ですか?」と言われた場合に、明確な答えがなかったわけですが、実は、この体質というものは、皆さんがおそらく一番よくご存じで、認識されてることだと、わたしは考えています。

と言いますのは、わたしも4年前までは6年間臨床をしておりましたので、よく患者さんに聞かれました。「うちのおばあちゃんが心筋梗塞(もしくはがん)で入院しているのですが、わたしは大丈夫ですか。」もしくは、「わたし糖尿病の気があるのですが(高血圧の気があるのですが、)子供は大丈夫でしょうか。」ということをよく聞かれました。
つまり、おじいちゃんから自分に、自分から子供に、何か引き継がれるものがある。体質は受け継いで、引き継がれるものだということは、皆さん認識されているのです。親から子供、子供から孫に引き継がれるもの。それはまぎれもなく「遺伝子」なのです。したがって、わたしたちは、人による体質の違いというのは、遺伝子の違いがもたらしているものだと考えています。

もちろん、病気というものは、遺伝子の変化だけで起こっているものではありません。わたしたちが対象としています、生活習慣病といわれる病気は、その体質と呼ばれる遺伝子の因子がベースにあって、その上にストレスやばい菌の感染が加わり初めて起こってくるものと考えています。ですから、その遺伝子の変化を持つことで必ず病気が起こるわけではないのですが、ベースとなるものが遺伝因子でありますので、ここの違いは把握しておかなければいけません。

では、遺伝子の形が違うというのはそんなに特別なことなのでしょうか?皆さん、すべての方が1冊の「生命の設計図」という本を持ってらっしゃいます。これは「父&母社」というところから出されていますが、お父さんとお母さんが命がけで作った本です。この生命の設計図は、30億文字の遺伝暗号で書かれた本です。ここには百科事典約1,000冊分の文字が書かれています。1,000冊分の文字があるにもかかわらず、わずかA、G、C、Tと、4文字だけの暗号でできています。

では、この本を開けてみます。非常に細かく書いてありますので、拡大して見てみます。そうしますと、AとかGとかCとかTという、4種類の遺伝暗号だけで書かれていまして、パッと見ただけでは何が書いているか分かりません。でも、前の人、隣の人、後ろの人の本を比べてみます。ほとんどの文字は同じなのです。あたかも同じように見えるのですが、なんと600文字から1,000文字に一つ、違うところがあるのです。
ですので、違うことっていうのは、ごくごく当たり前のことなのです。けども運悪く、不幸にも、その違いというものが、ある病気にかかりやすかったり、この薬の副作用を招いたりします。これから、どういう遺伝子の違いが、病気のかかりやすさ、薬の効きやすさ、副作用の出やすさに関係するかを調べていかないといけません。

では、このようなたった1文字の遺伝子の暗号で何か変わるのかということですが、これは言葉のお遊びですけども、たんぱく質を作る部分の遺伝暗号は、3文字で一つの意味を表します。ここに3つの暗号で1つの意味をなす言葉があります。「かれの、あおい、ひとみ」。この「あおい」の部分の1文字が変わるとどうなるか。「あおい」が1文字だけ変わることによって「あかい」瞳に変わります。このように、1文字変わっただけで全然違う意味、「青い瞳」が「赤い瞳」に変わってしまいます。
遺伝子でも同じことが起こっています。たった1文字の違いで、たんぱく質の性質が変わったり、たんぱく質の量が変わったりということが、体の中で起こってきます。ですので、先ほど非常に多くの違いがあると言いましたけども、その違いをもとに、たんぱく質の形とか量とかが、皆さんでわずかに違ってくる、そのうちのどれかが病気のかかりやすさ、薬の効きやすさ、副作用の出やすさにかかわっていると考えています。

では実際に、わたしたちがどのようにして、病気や副作用にかかわる遺伝子の違いを見つけていくかという方法をお示しします。家がいっぱい並んでいます。ひとつひとつが遺伝子だと考えてください。実は、いっぱいいっぱいある、3万何千という遺伝子が、さっきの1冊の本に書かれています。ここの遺伝子のところに、ある病気にかかりやすい原因、もしくは副作用を起こす原因があるとします。

ところが、今までの研究は、遺伝子の中でも表札のかかってる遺伝子だけ、つまり「大西」という遺伝子とか、「中村」という遺伝子とか「田中」という遺伝子とか、「PAI-1」という遺伝子とか「ACE」という遺伝子しか見ませんでした。つまり、機能の分かっている遺伝子、どういうふうな働きをするのか分かっている遺伝子だけを対象として研究していたのです。

でも皆さん考えていただきたいのですが、どこかに泥棒がいる。わざわざ、表札のあるとこに潜むよりも、表札のないところ、何かもう壊れてしまった工場とか、誰もいない家、表札のかかってないところにいるほうが多いかもしれません。
わたしたちの研究は、表札のかかっているところだけではなく、名前も分からない、表札もかかっていないような遺伝子も、すべて網羅的に解析をしていきましょうという研究です。今までは、表札のかかっているところしか研究しちゃだめですという研究者の方もいました。これは理屈に合いません。さっき言いましたように、表札がかかってないところの方が大事かもしれません。自分が知っているところだけ探すというのは、非常に無責任な話ですので、わたしたちはすべての遺伝子の部分について調べるという解析方法を取っています。

実際にはすべての遺伝子を調べたいのですけども、今まで、従来の方法でそれをしようとしますと、患者さんから500ccとか、1リッター、牛乳パック1本分ぐらいの血液をいただかないと、その解析はできなかったのです。ところが、わたしたちは3年前に、7ccの血液(健診で採決するときに使う採血管)から取り出したDNAという物質だけで、すべての遺伝子の範囲を検索できる方法を開発しました。

これはその結果ですが、ひとつひとつの点が患者さん1人だと考えてください。これは約400人の患者さんの遺伝子の形を一度にGGタイプとか、GAタイプとか、AAタイプなどと調べる方法です。これでわたしたちは、1年間に1億5,000とか2億サンプルを解析することができます。しかし、方法だけ持っていても全然仕方がありません。そこで、今回多くの、30万人という患者さんの協力をいただいて、わたしどもの方法、すべての遺伝子を解析できる方法とタッグを組みまして、多くの遺伝子について調べていこうと思っております。

実際、遺伝情報というものは、皆さん、特殊なものかというふうに考えてらっしゃるかもしれませんが、実は皆さん「血液型何ですか」というふうに聞かれたときに、もう簡単に、「わたしAですよ」「Bですよ」「Oですよ」と言われると思います。血液型というのは、遺伝子を測定しているわけではなく、たんぱく質を測定しているのですが、実は血液型というのは、明らかに遺伝情報なのです。
皆さんは、輸血を受けるときには、遺伝情報をきっちり明示するわけです。もう、当たり前のように血液型を言うわけです。遺伝情報なのに。それはなぜかと言うと、この遺伝情報が分かっていないと、大きな副作用、輸血などのときに、大きな副作用を起こすからなのです。ですので、遺伝情報を使うことすべてが悪ではないのです。実際に、多くの遺伝子の中にはもっと、これと同じように、知らないと何かが起こるという遺伝情報が絶対あるはずなのです。
それを調べていく、そういうデータベースを作っていく事が、わたしたちの仕事なのです。ですから、何でもかんでも遺伝情報を使ってしまえということを考えているわけでなく、このように、必ず必要な遺伝情報がどこかにあるはずなので、それに目をつぶっていないで探していこうというのが、わたしたちのプロジェクトです。
わずか10分の話ですが、少しでもわたしたち、見えにくい研究者が何をしたいか、何を目指しているかという事を、先ほど虫眼鏡で見ていましたけども、眼鏡をかければ見えるほどになっていただければ幸いと思います。どうもありがとうございました。
 
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