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基調講演「ひとりひとりの体質に応じたオーダーメイド医療とバイオバンクジャパン」

   
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もし私たちがここにあるXという治療法に効く人、Yという治療法に効く人が分かれば、先程言った、10人の患者さん、2人に効くとか、3人に効くのではなくて、10人の患者さんのうち、5人に良い治療法を提供することが出来るわけです。従って、ただ単に効かないからこっちにしようというのではなくて、私たちはこの薬はこの患者さんに合っている。この薬にはこの患者さんが合う、というようなことを明らかにして行けば、その利益を受ける患者さんというのはどんどん広がってくるわけです。副作用においては、逆のことが言えますが、それはまた後から話をさせて頂きます。ここまでのお話は、すなわち効く薬を上手く見極めていくことによって、どんどんその薬の恩恵、その治療法の恩恵を受ける人の数を増やすことも出来るわけです。この観点から今後、遺伝子の情報を利用することによって、少しでも多くの患者さんに今ある治療法でも利益をもたらすということが、可能になってくるわけです。こういう研究が可能になってきた背景に、先程から遺伝子という言葉を何回も使って参りました。
   
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遺伝子という言葉以外に、このような研究が出来るようになった背景を、今から少しご説明申し上げます。その背景にあるのが、“ゲノム”という言葉です。残念ながら、日本では、中学とか高校の教科書に“ゲノム”という言葉が出てくるのは生命倫理のところだけで、科学的なことは一切教えません。
科学として、“ゲノム”という言葉を教えておりませんので、みなさんにとっては馴染みがない言葉かもしれませんけれども、“ゲノム”というのは生命の設計図です。私達が人間の形をしているのは“人間としてのゲノム”、つまり、人間としての生命の設計図を持っているから、人間の形をしています。“犬は犬のゲノム”を持っていますから犬の形をしている、“豚は豚のゲノム”を持っているから豚の形をしているわけです。それぞれゲノムというものに書き込まれた設計図に応じて、私たちの形が作られます。その生命の設計図は、ここに示しました“染色体”という形で、私たちは細胞の中に見てとることが出来ます。つまり、設計図がこの染色体というものの中に織込まれています。その科学物質名が、“DNA”です。最近はいろんなところで“DNA”という言葉は、あるいは、“遺伝子”という言葉が使われるようになりましたので、みなさん耳にされたことはあると思いますけども、このDNAに書き込まれた情報によって私たちの人間の形が作られていますし、いろいろな生命の仕組みが、これによって調節されています。この生命の設計図、“DNA”ですけれども、4種類の文字から出来ています。非常に単純で、A、D、C、Tという4種類の文字しかなく、それが30億繋がって、私たちの設計図を形作っています。今私が取り組もうとしているのは、この30億文字の内、3百万箇所から1千万箇所が個人個人で違っているという点です。“何故、ある人はある薬にとんでもない副作用が出るのか?”、あるいは“何故、私たちがみんな姿・形が違うのか?”などの個人個人の違いがあるのは、この微妙に遺伝暗号文字が違っているからです。今までなんとか体質と呼ばれてきたものも、実はこの遺伝暗号の違いが体質というものに反映されて、私たちの違いを形作っているわけです。

   
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少し細かくなってわかりにくいところがあるかもしれませんけれども、30億の遺伝暗号から出来ているゲノムの中に、遺伝子という情報単位が約3万〜4万カ所存在します。この遺伝子はたんぱく質というものを作る情報をもっています。たんぱく質というのはホルモン或いは食べ物を消化する為に使われているアミダーゼ、トリプシン、リパーゼとか、皆さんも聞いた事があるかもしれませんけれども、そういうものがたんぱく質から出来ていて、それによって、私たちの生命が調節されています。この遺伝子というものには、いつたんぱく質を作るのか、どこで作るのか、どれだけ作るのか、といった情報も入っていまして、そのたんぱく質の作る量の多い少ないによって、私たちは非常に微妙な変化を起こしますし、逆に言えばたんぱく質が、いつ、どこで、どれだけ、という形式で問題なく調節されていると、私たちは健康を維持していくことが出来ます。この遺伝暗号の違い、あるいはいろいろな環境とかストレスによって、遺伝子の働きに違いが生じ、それによってたんぱく質の性質が変わったり、たんぱく質の量が変わったりします。つまり、本来あるべき性質のものではなくなったり、本来あるべき量ではなくなったりすると、健康を維持する為のバランスが崩されて、病気になってしまいます。この微妙な違いが、また、それぞれの患者さんのいろいろな体質の違い、例えばがんの性質の違いなどを作ります。遺伝子の働きのバランスが私たちの生命の調節に関係していますし、そのバランスが崩れると病気になりますし、病気になっても微妙なたんぱく質の働きの違いで、いろんな病気の性質の違いをきたします。

   
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繰り返しますけれども、遺伝暗号の中には、何百万箇所か遺伝暗号の違っている場所があります。個人間で違っている場所があって、姿・形をもたらしたり、あるいは病気になりやすい、なりにくい性質に影響したり、あるいは薬に効きやすい人、効きにくい人、副作用の強く出る人というようないわゆる、私たちが今までこの薬は合う、合わない体質だと言ってきた体質の科学的な背景として、遺伝暗号の違いがあるのだということをご理解下さい。インフルエンザにまったくかかったことが無いという方、この中にいらっしゃるかもしれませんけども、ウイルスが入ってきても感染が起こらないタイプの遺伝子を持っている人というのがエイズなどでの例でわかってきていますし、このような遺伝暗号の違いが、微妙な病気になりやすい、なりにくい違いに反映されています。
   
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難しい話をしてきましたが、一つの例として皆さんが日常感じていると思われる事例を上げさせて頂きます。このようなことも遺伝子でわかってきました。暗い場所に居て、パッと明るい所へ出ると、眩しくて見えない。その眩しくて見えない時間が、人によって違います。すぐに明るい所に慣れる人もいれば、なかなか慣れない人もいます。これを、“明順応”=明るい場所に慣れるというので、“明順応”といいますけれども、この明順応、直ぐに光の明るさに慣れる人、なかなか慣れない人の違いが、網膜にある光を感じる因子(レセプターと言います)を作る遺伝子1個の塩基、の1個の遺伝暗号の違いが、“この慣れやすさ”=明るい所に慣れやすいか否かの違いを反映しているのだという論文が、最近紹介されました。“私は大丈夫だ。もしくは、私は光に弱い方に相当する”と思われている方がいらっしゃるかもしれませんが…このような殊更に例として取り上げる程ではないかもしれませんが、日常で体験している様々な個人個人の違いが、次第にこのような遺伝子の違いによって証明されつつある時代であるということをご理解下さい。
   
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先程の病気の話に戻しますが、病気が生じるには勿論前提として、遺伝的な罹りやすさや罹りにくいと言う要因と、環境的な要因の2つが関係します。ところが、同じように環境にさらされたからといっても、同じよう病気が生じるわけではありません。例えば体重が80キロになっても問題がなく平気な人もいますし、80キロの体重になった為に、肥満によって糖尿病になる人もいます。同様に100キロでも平気な人もいますし、120キロでも平気な人もいますが、80キロの体重で肥満となり、糖尿病になる人もいます。そのような微妙な違いを、実は遺伝子が次第に証明できるようになってきました。
   
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遺伝暗号と病気が生じた人を違った角度から説明するとこう言う事になります。家は家の設計図に基づいて作られます。設計図がしっかりしていると、地震が起きても問題はありません。ところが、同じ震度であっても設計図にミスがあると、少し壊れたり大きく壊れたりします。これと同じで、私たちは何かしらのストレスを受けると、ストレスを受けた時に平気な人もいれば、ストレスに弱い人もいる、その違いと言うのは、私たちの生命図に書き込まれた微妙な違いに影響されているということで、同じストレスや同じ環境でも、病気になったり、ならなかったりするのは、設計図の違いなのです。つまり遺伝暗号の違いによって、私たちが持っている強さが違うからで、逆に言えば、どの遺伝暗号を持っているとどの病気になりやすいかと言う事が、判明すれば病気の根本的な解明に繋がります。更にそれを利用してまた新しい治療法や新しい診断法の開発にも繋げて行くことが出来るわけです。私たちは“遺伝子とある病気の関係を調べながら、病気の根本的な原因を探したり”、あるいは“副作用の原因を見つけたりする”ということを今試みています。

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