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「オーダーメイド医療とバイオバンク」


ご紹介有難うございました。理化学研究所の田中と申します。本日は『オーダーメイド医療』を実現するための研究と題して、10分間という短い時間ですが、研究者がどういう考えに基づいてどういう研究をしようとしているかについて、ご説明します。まず、オーダーメイド医療を実現するための研究ですが、言い換えますと、病気に関わる体質を解明する研究であるといえます。そして、もっと直接的に言いますと、私の所属するセンターの名前から言葉を借りてきまして、“体質の違いを多型で説明しようとする”研究であるわけです。これからの私のお話でこの2つのキーワード、体質と多型についてご理解を深めていただければと思います。

では最初のキーワード、体質についてですが、お酒に強い体質とか、風邪に強い体質とか、薬に弱い体質とか、太りやすい体質とか、みなさん気軽に体質という言葉をお使いになると思います。ですが、改まって体質とは何かと聞かれると難しいところもあるかと思います。実は体質というものには大きく2つの特徴があります、1つ目は、お酒に強い体質の人もいれば、お酒に弱い体質の人もいる、といったように他の人と比べることによって初めて生まれてくる概念であるということです。つまり、体質は人間一人一人の違い、すなわち個人差を表しているわけです。

体質という言葉の持つ2つ目の特徴を、今度は家系図で説明しようと思います。みなさん、家系図はある程度直感的におわかりになると思いますが、たとえば、男の人と女の人がいて、結婚して子供を3人もうけるとします。さらに、その長女が結婚して子供が1人生まれるとします。さて、この女性はいろいろと考えます。そう複雑なことではなく、みなさんも考えるようなことです。それは、お父さんはお酒に強い、お母さんもお酒に強い、そういえば私の兄弟は全員お酒に強かった。といった具合です。続いては、病気に関係した体質の話になりますが、お母さんは糖尿病だ。そういえば、おばあさんが糖尿病で入院している。あ、おじさんも糖尿病だった。今度は父方で、お父さんは高血圧、おばあさんも高血圧、おじさんも高血圧。こういう状況にあった場合、つまり血のつながっているまわりのひとたちがなんらかの病気にかかっている場合、 私は大丈夫だろうか? とか、私の子供は大丈夫だろうか? とか自然に考えてしまうものだと思います。実はここに体質の2つ目の特徴が表れています。それは、体質は両親から受け継ぐもの、また子供に渡すものであるということです。つまり、体質は遺伝するというのが2つ目の特徴です。

では、遺伝する物質はどこにあるのでしょうか? 先祖伝来家伝の書みたいなものが、身体のどこかに存在するはずです。人は心臓や肺といった組織から成り立っていて、その組織を形作っているひとつひとつの細胞の中に核というものがあります。そこに染色体という糸状のものが存在します。それが、遺伝する物質です。この染色体を並べてみると、ヒトの場合、24種類あることがわかっています。そして、いろいろと調べてみると、たとえば、この部分には筋肉の元となるタンパク質を作るための情報が入っていることがわかってきました。アルコールを分解する酵素を作るための情報はここ、血液型を判定する元となる物質を作るための情報はここ、胃酸の元となる物質を作る情報はここに入っている、この1つ1つの単位を遺伝子というわけですが、たくさんの種類の遺伝子がヒトとして生きていくために必要なたくさんの種類のタンパク質を作っているわけで、それがすなわち生命の設計図と言われる所以です。

さて、この染色体を引き延ばして拡大すると、アルファベットが見えてきます。実はこのヒトの設計図はたった4種類の暗号文字から成り立っていること、全部で30億文字あることがわかっています。これは百科事典1000冊分にあたるということで、いかにヒトがヒトとして生きていくために情報量が多いかを表しているのです。人は両親から1セットずつもらいますから、同じ箇所は2つあります。Bさん、Cさんも同じです。これを見る限り、みんな同じ暗号文字です。ですが、スキャンしてみると、暗号文字の異なるところが見つかってきます。これを多型といい、遺伝暗号の個人差です。この個人差は数百から千文字に一カ所存在しています。さきほどヒトの設計図は30億文字からなると申し上げましたが、この数字を使って計算すると、全体では300万から1千万カ所という非常に莫大な数、存在することになります。そして、この暗号は3つの並びで一つのアミノ酸の情報を持っています。この3つの並びと設計図というキーワードから、たった1文字の違いがどれほど大きいのかを、建物の設計図を使って説明していこうと思います。設計図をめくってある箇所を見てみますと、壁を白くぬると書いてありました。その通りにすると、みなさまおなじみの名古屋城になりました。ですが、この場所が1文字だけ変わって黒く塗ると書いてあった場合、まったく違うお城になってしまいます。と、いうわけで1文字の違いの大きさがおわかりいただけたところで、今度はちょっと難しく、また漫画的な話で病気に結びつけようと思います。

また建物の設計図ですが、屋根に瓦を貼るという文が設計図に書いてありました。ところが、ミスプリントで俵を貼るとなっていた設計図を見て作ると、なんだか変な建物になってしまいます。この建物、晴れているときは問題ないのですが、雨になった途端、雨漏りをしてしまいます。もう1種類だけおつきあいください。今度はドアに鍵をつけるはずが傘をつけてしまった場合です。お巡りさんが警備していてくれれば、ドアに傘がついていても問題ないんですが、経費節減で巡回してくれなくなってしまうと泥棒に入られてしまいます。この2つを考えてみると共通点があります。困った状況は、環境によって作られるということです。設計図に穴があったとしても、環境がよければ困ったことにはならないわけです。そして、ここからヒトの設計図の話に入れ替わります。ヒトの設計図は、日本語では書かれていません。先ほど説明しましたように4種類の暗号文字です。そして、左側では塩分の多い食事をしているとこの設計図の場合は高血圧になります。右側では糖分の多いおやつばかり食べているとこの設計図のヒトは糖尿病になります。というように、ヒトの設計図のどこに違いがあり、違いのどれが病気と関わっていくかを見つけるのが研究の第1目標です。さきほどの建物の設計図は日本語で書かれていましたから、設計図を読めば建物の出来具合は想像がつくわけですが、ヒトの設計図の場合は暗号でどこになにが書いてあるのか完全にはわかっていない状態であるところが、難しい点です。

先ほどからでてきていますので、もうおわかりと思いますが、遺伝要因と生活環境の両方が関わって生活習慣病が起きてきます。私たちのプロジェクトでは遺伝要因をまずは解き明かそうとしていますが、そうすると生活環境のばらつきを出来る限りなくす必要があります。そのためには非常に多くの患者さんの設計図が必要となるわけです。ほんのちょっとだけ実際の研究の話をしますと、この大量のサンプルを保管するシステムを東京大学医科学研究所で作っており、サンプルを高速に解析するシステムもできあがっています。でてきたデータを解析して、病気と多型のつながりを明らかにしていきたいと考えています。以上で私のお話はおしまいですが、『オーダーメイド医療』を実現化する為の研究は、体質の違いを多型で説明できるようにする研究であることを、おわかり頂ければ非常にうれしい限りです。ご静聴有難うございました。
 
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