カルバマゼピンのオーダーメイド投薬(個人の遺伝子型に基づく投薬の決定)

研究の解説

カルバマゼピンという薬は、てんかんや、統合失調症および双極性障害における躁症状を改善するための治療薬であり、特に、てんかんの中でも部分発作の場合によく使われます。三叉神経痛の痛みを取る目的でも用いられています。

カルバマゼピンは、薬疹という副作用(発疹・発赤、やけどのような水ぶくれの症状が、比較的短期間に全身の皮膚、口・目の粘膜にあらわれる病態)を起こしやすいことが知られています。発症メカニズムについては、体内でカルバマゼピンによって生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられていますが、いまだに詳細はわかっていません。

今までは、あらかじめ薬疹が起こりやすい患者さんと起こりにくい患者さんを区別する方法がなかったため、すべての患者さんに対して同じ方法でカルバマゼピンによる治療を行ってきました。その結果、一部の患者さんに薬疹が生じてしまい、時には薬疹が重症化してしまったために(皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)や中毒性表皮壊死融解症)、患者さんが亡くなられたり、治療が長期間に及んだりすることもありました。

これまで、基礎研究のプロジェクトである「オーダーメイド医療の実現プログラム」という国家研究プロジェクトにおいて、病気や薬と遺伝子の関係を調べてきましたが、2011年、日本人を対象とした研究により、カルバマゼピンによる薬疹の発症と関連する遺伝子(HLA-A*3101)の存在が明らかとなりました。その研究では、カルバマゼピンによる薬疹が起こった患者さん77人のうち、45人(58.4%)が、また、カルバマゼピンを飲んでも薬疹が起こらなかった患者さん420人中45人(12.9%)が薬疹遺伝子を持っていたことが判りました。これは、薬疹遺伝子を持っている患者さんでは、持っていない患者さんに比べて、カルバマゼピンによる薬疹が起こるリスクが9.5倍高いということを示しています。なお、薬疹遺伝子をもつ人は、日本人全体では約10%いることが推測されています。

この臨床研究の目的は、カルバマゼピンの内服を開始する前に、あらかじめ薬疹遺伝子を持っているかどうかを調べることで、カルバマゼピンによる薬疹が起こりやすい患者さんと起こりにくい患者さんを区別することによって、カルバマゼピンによる薬疹を回避することが可能であるかどうかを調べることです。このように、内服開始前に遺伝子型検査をするような方法で行う臨床研究を「前向き臨床研究」といいます。

研究計画書