バイオバンク通信第1号 1/2

バイオバンク通信

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インタビュー

ここまで進んだ、バイオバンク

~中村祐輔プロジェクトリーダーは語る

中村祐輔プロジェクトリーダー
 

平成15年度に文部科学省主導で始まった「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」。その重要な柱として「バイオバンク・ジャパン」が整備されてきました。全国の患者さんのご協力を得て、現在までに約26万症例の試料が集められています。中村祐輔プロジェクトリーダー(東京大学医科学研究所教授)に現在の状況を聞きました。

―このプロジェクトについて、今、どんなことをお感じになっていますか。

 研究が進んで、遺伝子の異常を見つけ、そこから薬を開発するプロセスも、非常に短縮されました。原因が特定されてから薬ができるまで、昔は30年ぐらいかかっていたのが、最近では、うまくいけば7年か8年でつくることが可能になってきたのです。ひょっとすると明日新しい薬ができるかもしれない、一週間後にできるかもしれない、そういう段階になってきていると思います。

 効き目が良く、副作用の少ない薬は、やはり適切な薬の標的分子を見つけることから始まります。ですから欧米の企業も、どの分子が薬として適しているのか、必死で探し回っているのです。バイオバンクをうまく活用して研究していけば、様々な病気の原因がわかって、より使い勝手のいい薬ができて、副作用を減らすことにつながると思います。

 また、バイオバンクに集められた試料は、日本の財産であると同時に、世界の財産です。このプロジェクトを通して、世界の医療あるいはヘルスケア対策の改善に貢献できればと思います。そのためには、もっと研究を継続する必要がありますね。

―協力して下さった患者さんへのメッセージをお願いします。

 おそらく患者さんたちの間には、「成果はどうなっているのか」という声があると思います。ようやく2年前から、いただいた試料を使った研究が始まり、特に薬の副作用に関してはかなりデータが蓄積されてきました。また、遺伝暗号の診断機器が開発できました。つまり、薬の副作用を回避するような使い方ができる段階の、一歩手前まで来ています。研究者たちはみんな必死でがんばっています。確かに、時間がかかりますが、継続することで、本当に患者さんの役に立つものがたくさん出てくると思うので、もう少しの間成果を待っていていただけたらと思います。

―バイオバンクの試料を集める上で、メディカルコーディネーター(MC)の存在が大きかったと聞いていますが。

 今までの遺伝子研究は、お医者さんが説明して同意をいただく形で進められてきました。しかし、お医者さんが忙しそうにしていれば、なかなか話もゆっくり聞けないし、質問もしにくいですね。「なぜ自分の試料がいるのか」といった点が、十分に理解されないままに研究が進んできたわけです。ですから、訓練を受けた専門のMC さんが丁寧に説明して、患者さんが気軽に質問ができるような環境作りが、非常に重要であると考えました。このプロジェクトは、MCさんたちがいなかったら、絶対に成り立たなかったと思います。MCさんたちは、患者さんへどのように伝えるとわかりやすくなるのか、現場でも自主的に工夫を積み重ねてくれたと聞いています。本当に感謝しています。

 日本では、臨床研究などがなかなか進まないと言われていますが、患者さんの協力は医学の進歩にとって不可欠です。患者さんが気軽に話ができるような立場の人を、今後もっと増やす必要があると思います。このプロジェクトで、そのモデルシステムを作ったということは、とても大きいと思います。そしてこのシステムをずっと継続して残していくことが、日本の医療の発展のためにも大事ではないでしょうか。

―今年度で、このプロジェクトの予算に関しては、いったん区切りがつくことになりますね。今後はどのように研究が引き継がれていくのでしょうか。

 今回集められた試料、そしてそこから得られたデータは、これからの研究や医療にとって、非常に大事なものです。ですから、これを有効活用する方向で、研究が続けられます。また、引き続き、患者さんの診療情報を集めて行くことが重要です。たとえば、薬の副作用の情報や、あるいは合併症を併発した情報などが加われば、その合併症の予防にもつながりますから、患者さんの情報を、長期間フォローアップしていくことが重要であると考えます。今後とも、ぜひみなさまにご協力をいただきたいと思っています。バイオバンクの管理組織の引継ぎなど、詳しいことが決定しましたら、改めてみなさんにお知らせします。

―ところで、先生はご多忙な研究の合間に、どんな息抜きをしておられますか。

 ・・・特に何もしていませんよ(笑)。やはり研究そのものが楽しいのです。主に、がんの研究ですね。今までは、患者さんを励ますような形で「もうすぐ新しい薬ができるかもしれない」と言ってきたわけですが、今は実感として、本当に明日できるんじゃないか、自分たちもそれに直接貢献できるのではないか、という気持ちを強く抱いています。

「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」はここまで進みました!
(平成15~19年度の5ヵ年計画)

  1. バイオバンク・ジャパンの整備
    全国18万人の方々から、血清、DNA、病気の診療情報(26万症例)のご提供をいただいています!
  2. 全ゲノムSNP 解析に基づく疾患関連遺伝子の解明
    バイオバンクの試料を用いて、疾患ごとに解析を進めているところです
  3. 薬理ゲノム学に基づく薬剤応答関連遺伝子の解明
    薬の副作用に関するデータ解析を進め、遺伝暗号の診断機器を開発しました(詳しくは裏面をご覧下さい)
  4. 国際HapMap プロジェクトへの貢献
    ヒトの病気や薬に対する反応性に関わる遺伝子を発見するための基盤として、国際共同研究プロジェクト(カナダ、中国、ナイジェリア、英国、米国)に参加し、約4 分の1 のデータ解析を担当しました(第1期は2005年に終了)

患者さんにご提供いただいた試料の数

 

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