バイオバンク通信第2号 4/4

バイオバンク通信

異なる立場の様々な思いを結ぶ役割を果たしたい

田村智英子ELSI委員会委員(お茶の水女子大学大学院准教授)に聞く

 

―普段はどのようなお仕事をされていますか?

 私は普段、遺伝カウンセラーとして遺伝子検査や疾患の遺伝などに関する相談に応じています。後進の指導にも当たっており、遺伝学や心理カウンセリング理論、生命倫理学、関連法規その他、多分野の知識や技術を統合的に用いることを目指しています。

―ELSI という言葉の由来について教えて下さい。

 ELSIという言葉は、英語の「倫理的、法的、社会的諸問題」の頭文字をとった造語ですが、1990年、米国の国立ヒトゲノム研究所でヒトゲノム計画が始まったとき、米国政府はヒトゲノム計画に割り当てられた莫大な研究費の3~5%を別枠として確保しELSI の研究に充てるという決定をしました。このときELSIという言葉がつくられたのです。

―実際にアメリカでのELSI 研究の状況をご覧になっていたそうですが、どんな様子でしたか?

 実は、私が遺伝カウンセラーとなる勉強のために留学した際、この米国の国立ヒトゲノム研究所に所属していました。そのとき、全米での各種ELSI 研究に予算を配分する統括部門の方々とも交流があったので、ELSI という言葉には思い入れがあります。

 米国のELSI 研究に充てられた予算は莫大な額でしたが、そのおかげで、ヒトゲノムの解析と同時進行で、倫理的、法的、社会的観点からの研究も進んだのです。そこでは、遺伝子やゲノム解析研究が進みつつある世の中において私たちが考えていかねばならない、様々な社会的問題や、教育、医療における課題などが示されてきました。倫理学者、法学者、社会学者、教育関係者、さらに遺伝カウンセラーを含む臨床現場の医療関係者などが、様々なELSI 研究に参加したことで、第一線のゲノム研究者との間で互いの理解が深まり異なる視点から議論することができるようになったことは、大きな意義のあることだと思います。

 今後遺伝子やゲノムに関する政策や社会的な提言をまとめていく際には、異なる分野、立場の人たちが専門領域を超えて話し合っていくことが大切だからです。

―ELSI委員としての抱負を一言お願いします。

 私が現在日本で参加しているELSI委員会の活動はまだ小さなものですが、その一環として、たとえば多くの病院を訪問しMC(メディカルコーディネーター)の皆様とお話しすることを通じて、プロジェクトの研究者と病院現場の医療関係者の意見の橋渡しを行ってきました。

 遺伝カウンセリングもまた、多分野にわたる学際的な領域で、専門分野の知識とともに患者家族の視点や多様な価値観の理解も求められます。

 ELSI委員会の委員としては、異分野にまたがる活動を知る立場を活かして、最先端の科学者と異なる立場の人々の間の対話と理解を進めるという精神を大切にしていきたいと思っています。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連する候補遺伝子領域が特定されました

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、身体を動かすための神経系に問題が生じることによって、飲み込みにくい、立ち上がりにくい、歩きにくいなどという症状から始まり、徐々に手足が痩せ、呼吸筋にも影響を及ぼす進行性の病気です。

 飯田有俊さん(理化学研究所)のチームは、バイオバンクに登録されたALS患者さんの試料94例のDNAと日本人一般集団のDNA を用いて第一次解析をおこない、52,608箇所の遺伝暗号について調べました。さらに症例数を拡大して、第二次解析を行いました。

 その結果、ALSと強い関連を示す遺伝暗号が見つかりました。さらに解析対象の試料数を増やして、詳細な解析を行っているところです。(第52回日本人類遺伝学会にて報告)

 これによって、今後ALS の研究が進展しやすくなることが期待されます。

「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」とは

 平成15年度より、文部科学省として、「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」(中村祐輔プロジェクトリーダー)が進められています。このプロジェクトでは、全国のプロジェクト協力医療機関を受診される47疾患の患者さんからDNA、血清と疾患情報・検査データなどの臨床情報の提供を受け、大規模なDNAバンク、血清バンクおよび臨床情報のデータベースを構築し、遺伝暗号を読み解く作業(タイピング)を経て、遺伝情報と病気や薬の効果・副作用の関連について研究しています。

患者さんにご提供いただいた試料の数

バイオバンク通信は、ご協力いただいた皆様に感謝をこめて、研究の状況をお知らせするために発行しております。
編集人 武藤香織 (東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 公共政策研究分野)
編集協力 株式会社オフィスマキナ
印刷 瑞穂印刷株式会社

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オーダーメイド医療実現化プロジェクト事務局
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
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