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感謝しつつ研究しています。
バイオバンクに関わる研究者に聞く―玉利真由美さん

バイオバンクで働く研究者についてお伝えするインタビュー、第6回目の今回は、理化学研究所ゲノム医科学研究センター呼吸器疾患研究チーム チームリーダーの玉利真由美さんをたずねました。
玉利さんは10人のスタッフと共に現代人にはなじみ深いアレルギーと遺伝子の関係について研究を続けています。
アレルギーの研究と言うと、具体的にはどんな研究をなさっているのですか?
バイオバンクのサンプルを頂いて行っているのは、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(CDPD)、花粉症と遺伝子の関連を調べる研究です。
日本人は、花粉症だと30%~40%、喘息だと大体5%の方がかかります。研究では、なぜ同じ環境で同じ花粉を吸っていながら花粉症になる人とならない人がいるのか、といったことを調べています。それから、病気が重症化するメカニズムを知るための研究も行なっています。また、特に、気管支喘息とアトピー性皮膚炎に関連する遺伝子を、全ゲノムを対象とした相関解析で同定し、今はその機能の解析を行っているところです。
どうしてアレルギーと遺伝子の関係を調べようと思われたのですか?
私自身が子どもの頃からアトピー性皮膚炎で皮膚科に通っており、重症花粉症です。叔父も12歳の時、喘息で亡くなっています。アレルギーが身近な存在だった、というのがあると思います。
研究者になったきっかけは何ですか?
医師は病気の原因や仕組みを分かって治療していると思っていたのですが、実際になってみると、実にわかっていないことがたくさんあるということを知りました。それで、少しでも病気の原因の究明に役立つことができればと思い、研究者を志しました。
研究の世界では、どんなことがわかってきていますか?
アレルギーは、免疫に関係する疾患です。免疫の研究は、私が医師になってからも大きく進歩しました。例えば、アレルギーの症状の一つである気管支喘息の研究は、以前は顕微鏡をつかい、喘息の患者さんの肺の組織の状態を観察する研究が主体でした。そのころは平滑筋の病気だと思われていました。
しかし、次第に抗原に反応する抗体(IgE)の存在が明らかとなり、それらの産生を促す体内の仕組み(獲得免疫)が明らかにされてきました。
さらに、現在では環境要因である、感染症、大気汚染物質、カビやダニなど、環境に接する上皮細胞から免疫応答を発動する自然免疫系のメカニズムが明らかにされつつあります。今は、こうした免疫学の進歩とゲノム解析技術の進歩の恩恵を受け、呼吸器/免疫疾患を研究するには絶好のタイミングだと思います。
研究で目指していることは何ですか?
免疫の研究が進歩し、アレルギーの病態を「慢性炎症」ととらえるようになり、最近ではアレルギー疾患も治療によりうまくコントロールが出来るようになってきました。私も、疾患の発症や重症化のメカニズムを明らかにすると共に、よりよい治療法の確立にも寄与したいと考えています。今、少数の専門の医師が各自の経験で行っている治療法も、多くの人に効くという証拠がなければ、多くの人に還元することができません。また一部の重症の方々にはどのような治療を行なうのがよいのか、そのために科学的な証拠をたくさん集めて、より有効な治療法を示していきたいと思っています。
研究のどんなところが難しいですか?
アレルギー疾患はその発症や増悪が様々な環境要因に影響されるところが難しいです。例えば喘息では症状としては“ヒューヒューして息苦しい”という同じ症状が起りますが、その原因となる要因(風邪、たばこ、ダニなど)は数多くあり、またそれぞれの要因に応答する遺伝子群は異なる場合があります。ですので、詳細な臨床情報をもとに、症例を小グループに分けて原因遺伝子について検討することも重要です。そのために多くの母集団が必要となります。今、バイオバンクに提供して頂いたサンプルも使い解析を進めているところです。
難しい研究を続けられる原動力は何ですか?
お医者さんの中にも、研究に時間を使いたいと思っていらっしゃる方はたくさんいると思います。その中で、自分は研究のための時間が与えられている。そのことに感謝しています。特にここでは患者さんからご提供いただいたサンプルを使い、非常に臨床に近い視点で研究ができ、とても恵まれています。みんなが臨床の現場でやりたいと思っていてもなかなかできないことをやらせて頂いているからこそ、研究者は一生懸命仕事をするのだと思います。
週に一度は臨床医として働きながら、研究を続けられている玉利さん。たまの休息はどんな風にすごしているのだろう。
料理が好きです。得意な料理というのは特になくて、季節のもので安く適当に作ります。時には、お店のご主人と仲良くなって教えてもらうこともあります。散歩も好きで、昭和記念公園にお弁当を持ってよく行きます。
最後に、患者さんに一言お願いします。
まず感謝です。患者さんは病院にいらして待ち時間が長いのが常かと思いますが、その上でさらに話を聞くために時間をとって頂いて、血液も提供して頂いているということに、本当に感謝しています。ですので、なんとか恩返しができるようにと思っています。