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一日も早く治療に結び付けるように
頑張っています。
バイオバンクに関わる研究者に聞く―松田 浩一さん

松田浩一さんは、東京大学医科学研究所のヒトゲノム解析センターゲノムシークエンス解析分野で、がんなどに関連する遺伝子の同定をする研究をしていらっしゃいます。研究者になられた経緯や最新の研究状況についてお話を伺いました。
松田さんの研究チームではどのような研究をしていらっしゃいますか?
一言でいうと病気の原因についての「犯人探し」のような研究です。疾患にかかりやすくなる原因の遺伝子(疾患感受性遺伝子)の同定、そしてがんにおいて最大の原因である「p53」がどのようにしてがんを引き起こすかについて研究しています。これまでに、関連する遺伝子を明らかにした疾患は、慢性B型肝炎、食道がん、大腸がん、全身性エリテマトーデス(SLE)、脳梗塞などです。慢性B 型肝炎、食道がん、大腸がんの解析結果については、新聞などでも大きく取り上げられました。これらの解析では、バイオバンクに登録されている約9,000名の方を対象に、解析を行っています。
整形外科がご専門だとお聞きしていますが、整形外科を選ばれた経緯について教えてください。
手塚治虫さんの漫画「ブラック・ジャック」のように、様々な病気で苦しんでいる患者の方が自分の手術によって助かるのであれば、医師としてこれ以上のやりがいは無いという強い思いがあり、学生時代は外科系を進路として考えていました。医学部学生時代の6年間、アメリカン・フットボールをやっていましたが、当時東大チームは結構強くて、大学医学部同士のリーグ戦で優勝したこともありました。私は「ワイドレシーバー」というパスプレイで得点するポジションでしたが、選手同士が激しい競り合いをしますので怪我が多かったですね。そのお陰で、整形外科には結構お世話になり、整形外科の明るい雰囲気に魅せられ、専攻するまでになりました。
なぜ、がんなどに関連する因子の同定に関心をもたれたのですか?
卒業後、整形外科の臨床医として大学病院やがんの専門病院で、骨肉腫などの悪性腫瘍の疾患と向き合うようになり、(医局の明るさだけでは乗り切れない)がん治療の切実さを痛感させられました。整形外科分野では、がんは数が少なく臨床面や研究面でも大きな進歩があまりない状態でした。もっとがんの治療に役立つような研究がしたくて大学院に進学し、いろんな分野の研究を積み重ねているうちに、疾患感受性遺伝子の研究に関わるようになりました。現在でも週一回病院で診察していますが、それ以外の時間は研究に打ち込んでいます。現在のように治療に直結するような研究にかかわれるのは、医者として、研究者として本望です。
最近の研究でお酒の強さとがんの関係などについて興味深い結果が出たとお聞きしていますが。
最近食道がんについて非常に面白い研究成果が得られました。お酒の強さは実は生まれつき決まっており、これを体質といいます。体のなかに入ったアルコールは、2つの酵素により分解され、アセトアルデヒドを経て酢酸に解毒されます。飲酒によって顔が赤くなったり、頭痛や気持ちが悪くなるような不快な症状が出るのは、このアセトアルデヒドの影響です。日本人の約半分の人は、アセトアルデヒド分解酵素の活性が高くお酒が強い体質ですが、約40%の人は悪酔いし、残りの約10%の人は全くお酒が飲めないタイプです。
このような体質の違いは、一塩基多型(SNP;スニップ)の違いによって決められ、その違いが食道がんのなりやすさにもかかわっていることが明らかになりました。この研究で得られたデータは、今後医療の現場にお返しし、ヘルスチェックの一環として使用することで食道がんの予防や早期発見に役立てていければと思います。(具体的な研究内容については、2頁をご覧ください。)
休日は何をしてお過ごしですか?
今でも休日にはアメフトの試合などに誘われますが、なかなか参加はできません。週末はなるべく睡眠をとり、新しい一週間に備えますね。研究は非常に速いスピードで進展しますし、研究者としてはまだ半人前ですのでゆっくり休みは取れないです。いい研究をして一日も早く治療に結び付けるように頑張っています。テレビを観る時間は殆どないけど、観られる時には野球を観ています。(関西の出身ですが)ライオンズのファンなので。
今後の研究の目標は何ですか?
現在、進めている研究はがんが中心で、悪性リンパ腫や大腸がんなどの疾患の原因となる遺伝子の同定や、複数のがんに共通して発症に関わる遺伝子の同定を目指しています。今後は、生活習慣と遺伝的要因を総合的に解析して病気の予防、治療に役立てていければと思います。
患者さんへのメッセージをお願いします。
ご協力頂いた方には非常に感謝しております。一刻も早く、研究成果を世に出すために常に研究のことを考え、日々頑張っています。今後ともご協力、ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。