バイオバンク通信第7号4/4

バイオバンク通信

オバマ大統領も応援しているオーダーメイド医療

 アメリカで初めてのアフリカ系大統領、バラク・オバマ大統領は、上院議員時代から、医科学研究の発展に高い関心を示してきました。その背景には大切な家族が、がん患者だったことがあります。オバマ大統領の母親は卵巣がん、祖父は前立腺がんでした。病気で苦しむ人を減らすために、政治家としてできること。その一つとして、オバマ大統領は、医科学研究の発展を応援してきました。そして、医科学研究の未来はオーダーメイド医療の実現にある、ということを、一早く議会に伝える役割を果たしました。
 上院議員になって一年目の2006年、オバマ大統領は一つの法案を議会に提出しました。題して、『ゲノミクス・アンド・パーソナライズド・メディシン・アクト』。大統領は、この法案の中で、医療はオーダーメイド医療に向かっていること、そしてオーダーメイド医療を実現するためにはゲノム医科学の基礎研究の促進が重要であることを示し、そのための具体策を提案しました。つまりこれは「オーダーメイド医療法案」と呼べるものです。法案における提案の一つには、保健社会福祉省にバイオバンクを設置することがありました。
 ところで、政治家が医科学の研究を応援することは、勇気のいることです。政治家としての任期中に実現するとは限らないことを提案し、実現に向けて動くことのできる政治家はそう多くはいないはずです。オバマ大統領にそれができるのは、黒人が奴隷だった時代から大統領が生まれるまでの長い歴史の先端を担う人として、目標を世代を超えて実現すること、さらに言えば苦しみを世代を超えて克服することの意義を深く理解しているからかもしれません。
 残念ながら、この「オーダーメイド医療法案」は成立しませんでしたが、オバマ政権で医療政策を支えている専門家の一人は、「オバマ氏が大統領になれば、法案で提言されたことの多くは、法律がなくても実現されるだろう」と述べています。その実現に向けた第一歩が、2009年7月8日に示されました。オバマ大統領は、米国ヒトゲノム計画のリーダーだったフランシス・コリンズ氏を、米国医科学研究の拠点、国立衛生研究所の所長に任命したのです。これからも、米国におけるオーダーメイド医療の実現化にむけた動きから目を離せません。

イベント報告:

 2009年6月23日、早稲田大学国際会議場にて、オーダーメイド医療を考えるシンポジウム『個の医療における世界戦略の現在:ゲノミクス・アンド・パーソナライズド・メディシン法案』が開かれました。米国でオーダーメイド医療の実現化に向けた研究を率いる研究者、ラテイン教授とジャコミニ教授による報告の後、中村祐輔プロジェクトリーダーとのパネルディスカッションが行われました。ラテイン教授は、オバマ大統領による「オーダーメイド医療法案」の他にも、関連する法案がいくつか提出されていることを紹介しながら、米国におけるオーダーメイド医療政策の現在を報告されました。ジャコミニ教授は、特にゲノム創薬や薬理遺伝学に関する日米共同研究の成果を報告されました。そして、パネルディスカッションでは、日米での、オーダーメイド医療の実現化構想をとりまく環境の違いを確認し、日本でオーダーメイド医療を実現するためには、患者さん、研究者、企業、国の協力が欠かせないということが強調されました。
 オーダーメイド医療を実現するためのとりくみが、今、世界各地で行われています。そのどれもが、協力して下さる方々なしには成り立たない取り組みです。日本のオーダーメイド医療実現化プロジェクトに参加して下さっている皆様に、この場を借りて、あらためて感謝致します。

写真提供:NPO 法人オーダーメイド医療を考える会

ジャコミニ教授

ラテイン教授

 

【編集後記】

 長かった梅雨もあけて夏真っ盛りとなりました。バイオバンク通信第7号をお届け致します。皆様からの本プロジェクトへのご協力は、食道がんをはじめ、着実な研究成果に結びついていますが、オバマ大統領が目指す未来ともつながっていることを感じて下されば大変嬉しいです。皆様のご協力に感謝申し上げます。夏は体力を消耗し、体調を整えにくい季節です。どうぞご自愛下さいませ。

バックナンバー

オーダーメイド医療実現化プロジェクト事務局
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
東京大学医科学研究所内
電話・ファックス(03)5449-5122

バイオバンク通信は、ご協力頂いた皆様に感謝を込めて、研究の状況をお知らせするために発行しております。
編集人:洪賢秀・武藤香織・渡部麻衣子(東京大学医科学研究所内 ヒトゲノム解析センター公共政策研究分野)
印刷:瑞穂印刷株式会社

ページトップへ

バイオバンク通信第7号  4/4 page

目次へ | 前のページへ