バイオバンク通信第8号 1/4

バイオバンク通信

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インタビュー

国際的な健康問題としての糖尿病に迫る

バイオバンクに関わる研究者に聞く―門脇 孝さん

 

門脇孝さんは、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の教授として、糖尿病の診療と研究に従事しておられます。バイオバンク・ジャパンに集められたDNAは理化学研究所で解析していますが、その後、メタボリック・シンドローム関連疾患領域については、門脇さんがリーダーを務める全国的な公募研究チームで詳しい研究が行われています(下図及び2 頁もご参照ください)。ご専門の糖尿病を中心として、この研究チームの現在の状況をうかがいました。

―門脇さんがリーダーを務める研究チームでは、どのような疾患について詳しく研究していらっしゃいますか?

糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症について研究しています。 これらはいずれも、メタボリック症候群に関係するといわれている疾患です。 日本のいろいろな大学から14人の研究者とその仲間が集まって取り組んでいます。

―どのような研究をされていますか?

我々の研究チームでは、これらの疾患と関連がありそうな一塩基多型(SNP;スニップ)を網羅的に調べています。 特徴のあるSNP が見つかったら、それらがバイオバンク以外の日本人集団でも共通しているのか、検証をしていきます。 現在は、いくつか候補のSNP が見つかってきたので、ちょうど検証作業中です。
また、韓国や香港、中国、シンガポールなど、他のアジアの国々でも共通していないかどうか、確認しているところです。

―糖尿病をテーマに選ばれたのはなぜでしょうか?

私は、「世のため人のために役立つ仕事がしたい」という単純な動機で、30年前に医師となりました。当時は糖尿病の患者さんの数は、今ほど多くはありませんでしたが、血糖値を一定に保つ重要な働きを持ち、糖尿病との関係が深いインシュリンに興味を持ちました。インシュリンについての研究は、何度もノーベル賞が授与されているんですよ。インシュリンについていろいろな発見があると、すぐに診療に役立てることができる点は 魅力でした。また、特に2型の糖尿病は、適切な自己管理によって劇的に病状が改善される一方、病状が悪化していくと、失明、透析、壊疽、心筋梗塞、脳卒中などの合併症に苦しみます。そのため、糖尿病を専門にするということは、患者さんの心にも触れられ、全身を診ていくことにもなりますから、とてもやりがいがあると感じました。

―糖尿病の診療だけでなく、研究にも携わるようになられたのはどうしてでしょうか?

プロジェクトリーダーの中村祐輔先生が、外科医としての限界を感じてがん研究に身を投じていかれたように、私も患者さんの苦しみと現在の治療の限界を感じたのがきっかけです。糖尿病の治療は、定期的な自己注射や血糖値の測定など負担が大きいです。また、患者さんには食事療法や運動療法を行なっていただく必要がありますが、それが守れないときに、食べたり飲んだりするだけで患者さんは罪悪感を覚えておられます。生活に負担のない予防法や治療法を開発していくためには、糖尿病の本態を解明して、それをターゲットにした薬をつくっていく必要があるのではないでしょうか。まずは生活習慣への介入や予防薬によって糖尿病を予防すること、そして糖尿病になっても生活の質を下げることなく、やりたい夢を実現して天寿を全うしていただきたいと思います。

―糖尿病の遺伝子型の研究の難しさはどのようなところにありますか?

エネルギー倹約遺伝子説という仮説を提唱したニールという科学者は、1970年代に、研究の難しさから、「糖尿病の遺 伝子研究は、遺伝学者にとって悪夢である」と言ったことがありました。しかしながら、既に欧米で20か所近いSNPが見つかり、日本でもいくつか見つかってきています。バイオバンク通信第5号でも報告されているKCNQ1 という遺伝子型は、日本人に特有のものでした。欧米で糖尿病になっている人は顕著に肥満の人が多いのですが、日本ではそれほど肥満でなくても糖尿病になっている人が多いことから、やはり遺伝子型による違いがあるのだろうと考えられます。こうした遺伝子型と、食生活や運動習慣などとの相互作用がどうなっているのかを明らかにしていきたいと思います。

―患者さんへのメッセージをお願いします。

日本には、890万人の糖尿病患者さん、1,320万人の糖尿病予備軍がおられます。世界的には、もうすぐ4億人以上に達すると見込まれていて、国連でも予防についての決意表明が採択されました。皆様からのサンプルがどれほど役に立つ成果に結びつくか楽しみです。貴重なお気持ちに応えるべく、気持ちの原点を大事にしてよい成果をあげたいと思っています。

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