バイオバンク通信第13号 1/4

バイオバンク通信

バックナンバー

インタビュー

研究成果を一日も早く
患者さんのもとに届けたい

バイオバンクに関わる研究者に聞く ―前佛 均さん

バイオバンクに関わる研究者 前佛 均さん
 

 前佛 均さんは、東京大学医科学研究所のヒトゲノム解析センターゲノムシークエンス解析分野で、遺伝子多型解析による乳がん治療薬タモキシフェンの治療効果の関連研究をしていらっしゃいます。研究者になられた経緯や最新の研究状況についてお話を伺いました。

今どんな研究をされていますか。

 私は遺伝子多型や遺伝子解析を通じた患者さんのひとりひとりの体調、体質に合わせた治療の研究を理化学研究所と共同で実施しています。特に、乳がんに対する治療薬の反応、膀胱がんに対する抗がん剤治療の反応性の研究を進めてきました。

 今一番力を注いでいるのは、タモキシフェンという乳がん治療薬の研究です。タモキシフェンは、約30年前に開発され、女性ホルモンを抑え、乳がんに効果が高い薬として使われています。しかし、人によっては更年期症状などの副作用を引き起こすことがあります。また、効果がなくがんを再発する場合もあります。このように、その効果には個人差があることが分かってきました。

 そこで今、遺伝子多型解析の結果は、民族や個人によってその違いがみられることに注目しています。欧米人を対象とした研究結果は参考にはなりますが、遺伝的背景が異なりますのでやっぱり日本人を対象とする研究結果が重要であることが浮かび上がってきました。これまでバイオバンク・ジャパンで出された研究成果のなかには、タモキシフェンの薬を代謝する酵素を作り出すCYP2D6遺伝子型の成果があります。この遺伝子型の働きが弱いタイプを持つ人は、それを持たない人に比べて、再発の可能性が高いことを明らかにしました(バイオバンク通信第3号および第10号に紹介)。

 一方で、その効果が認められなかったという報告もあり、その詳細を検証していく必要性が出てきました。このような最近の基礎研究をめぐる議論や、基礎研究を応用していくための課題を明らかにするために、個々人の遺伝子型の反応性を確認するための臨床研究(2頁参照)を予定しております。

 日本人を対象としたタモキシフェンの効果を見るには、がんの再発があるかどうかを確認するための長い時間が必要ですが、もしその結果が明らかになれば、日本人のみならず、遺伝的背景が近いアジア人においても役に立つと考えられます。さらに、薬の有用性や安全性を保ち、患者さんに安く提供できるのは大変重要なことなので、ぜひ頑張りたいと思います。

医者になられ、さらに研究者になられたきっかけは何でしょうか。

 高校2年生まではとくに医者になろうとは全く考えていませんでした。それまでは、法律関係や警察の方に興味がありましたね。高校2年生の時、友人が急に白血病で倒れ、大変ショックを受けました。ちょうど進路を決める時期でもあったため、自分の力で何とか病気の人を助けたいという気持ちが強くなり、医者を 目指すことになりました。

 医学部を卒業してからはしばらく医師として働いていましたが、札幌医大大学院在学中の2000年から、東京大学医科学研究所(中村祐輔前プロジェクトリーダーの研究室)で2年半ほど国内留学しました。その後、一度北海道の病院に戻りましたが、国内留学の経験から研究への思いが強くなり、再び医科研に戻り研究を進めるようになりました。

休日の過ごし方や趣味を教えていただけますか。

 どちらかというとインドア派なので、休日は家で映画を見たり、本を読んだりして過ごすことが多いです。たまに横浜の温泉施設に行くのが楽しみです。映画はいわゆるハリウッド映画が好きで、戦争ものやアクション映画をよく見ます。

 音楽は、坂本龍一、細野晴臣、高橋幸宏で結成されたYMOが好きでした。当時は時代の先駆けの新しい音楽でしたので、それが大好きでCDを買い漁っていました(笑)。

 学生時代の部活ですが、実は高校時代まで卓球部に所属していました。大学時代は友達とマラソン同好会を作って、フルマラソンを4回完走したことがあります。有名なホノルルマラソンにも出場した経験がありますよ。医者になってから忙しくてなかなか走れないですね。

バイオバンク・ジャパンに協力してくださる患者さんへのメッセージをお願いします。

 ご協力していただいている患者さんに感謝の気持ちでいっぱいです。研究成果をすぐに皆さんにお返しできませんが、地道に研究成果を積み重ね、将来必ず皆さんのお役に立てると信じて、精力的に研究に励んでいます。これからも引き続きご協力をどうぞよろしくお願いします。

ページトップへ

バイオバンク通信第13号  1/4 page

目次へ | 次のページへ