バイオバンク通信第14号 1/4

バイオバンク通信

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インタビュー

バイオマーカーの開発で
病気の診断に役立てたい

バイオバンクに関わる研究者に聞く ―中川 英刀さん

バイオバンクに関わる研究者 中川 英刀さん
 

 中川英刀さんは、理化学研究所バイオマーカー探索・開発チーム・チームリーダーとして、バイオマーカーの開発を行っています。人の健康状態を定量的に把握するための指標をバイオマーカーといいます。最新の研究成果などについて伺いました。

現在の研究について教えてください。

 私たちの研究室では、現在、3つの研究を推進しています。1つ目は、みなさんからいただきましたサンプルを使用して、疾患のバイオマーカーの同定と開発をしています。2つ目は、前立腺がんの遺伝子多型解析(SNP)の研究、3つ目は、がんを中心に遺伝情報全体(全ゲノム)を網羅的に解析しています。

バイオマーカーの開発とは何ですか。

 バイオマーカーは、すでにたくさん見つかっています。遺伝子もバイオマーカーとなります。例えば、前立腺がんの前立腺特異抗原(PSA)値*は、感度の高いマーカーで、実際の診断や治療の選択に使われています。しかし、まだバイオマーカーが確立されていない分野が残されているので、病気の新しい診断や治療に役立つバイオマーカーを探索しています。その探索方法としては、病気の有無や進行にともなって変化し、血液などの体液中に分泌される疾患関連のタンパク質を、最新の超高感度の質量分析器で網羅的に探索しています。

疾患関連遺伝子と血清マーカーを合わせた診断などは行われていますか。

 疾患関連遺伝子と血清中のバイオマーカー(血清マーカー)、両方の方法を使ってより正確な診断をするための研究がはじまっています。そのひとつが、積極的な治療を必要としない病気を見分けるための試みです。遺伝情報だけでは病気の重症度は判断できません。血清マーカーを合わせて使用することで、例えば、PSA検査で弱陽性になった方において、前立腺がんの穿刺(せんし)細胞診のような針を刺して細胞を取る生体検査を回避することができると考えられます。医学の進歩で穿刺細胞診も痛みが少なくなったとはいえ患者さんにとっては不安がありますからね。このような方法が今後さらに注目されていくと思います。

臨床医から研究者になられた背景を教えてください。

 父が外科医であったために、小さい時から病院は身近な場所でした。このような環境で育ったこともあり、小さい時から医者になることが夢でした。医学部卒業後は、重症管理や救急医療に関心が高かったので集中治療室で働いていました。その後、大学院に進学し、中村祐輔先生に指導を受けたことから、遺伝子研究への関心が強まり、アメリカへ留学しました。帰国後には、普通の臨床医に戻るつもりでいました。しかし、身内が手術できない肺がんとなったことで、外科医として手術できないという無力感を感じたのと同時に、化学療法のよさについて実感させられました。このような経験を通して、研究者になることを決心させたのだと思います。今は、がんの新しい治療法の研究に専念し、これを私のライフワークにしています。

休日はどのように過ごされますか。

 学生時代は、体育会系のアメリカン・フットボールをやっていました。前列でがんがん体当たりをするポジションでしたね。今は、試合をテレビで見ながら解説者気取りでいます。休みの日も研究について考えたり、論文を読んだりすることが多いですが、なるべく、子どもといっしょにプールで遊んだり、自転車を乗ったりして、家族との時間を大切にするように心懸けています。

本プロジェクトにご協力いただいているみなさまにメッセージをお願いします。

 研究データを扱っていると、臨床の現場で出会った患者さん一人一人のお顔が鮮明に浮かんできます。病気で苦しんでおられた方々の思いを心に刻み、早期診断が可能な新しいバイオマーカーの開発や研究成果を目指して頑張りたいと思います。

*前立腺特異抗原

(Prostatic Specific Antigen) とは、前立腺の上皮細胞と尿道の周囲の腺からつくられて分泌される糖タンパクの一種。前立腺がんになると、PSAの分泌量が正常の約2倍になる。

【血清を利用した研究についての詳細は、2頁へ】

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