NHK総合
クローズアップ現代 10月20日19:30~
“究極の個人情報”をどう生かす ~動き出した遺伝子プロジェクト~

プロジェクトからのコメント ~決定因子と危険因子について~

 

全般的にはきちんとした取材に基づき、よく整理されている番組でした。しかしイギリスでおきている遺伝子診断にもとづいた保険差別の問題が、本プロジェクトの同一直線上にあるかのような誤解を与える点に危惧が残りました。この点について解説したいと思います。

皆さんは、病気に関する遺伝子に決定因子と危険因子があるということをお聞きになったことがおありでしょうか? たとえばハンチントン病の遺伝子を持っているとほぼ100%この病気にかかり、BRCA遺伝子を持っていると欧米では70~80%が乳がんか卵巣がんにかかります。これが決定因子と呼ばれるもので、将来の発症は遺伝子によって左右される確率がきわめて高いものです。番組で紹介されたイギリスでは、保健省が2000年10月生命保険会社に対し、ハンチントン病の家族が過去に発症前遺伝子検査を受けたのかどうか、またその結果について確認する権利を認めたため、ハンチントン病を引き起こす原因遺伝子を持つ人の加入・保険金増額が認められないという事例が発生しました。

一方、本プロジェクトで中心的研究対象としている生活習慣病の関連遺伝子は危険因子と呼ばれるもので、遺伝子だけで発症が運命付けられるものではありません。例をあげると、糖尿病や心筋梗塞についてはこれらの病気になりやすい遺伝子を持っていても、1000人に100人の罹患率が200人に増える(なりやすい遺伝子を持っていない人の罹患率10%に対して持っている人の罹患率は20%なのでリスクは2倍)程度です。したがって、病気になりやすい遺伝子を一つ持っていても1000人に800人は糖尿病にはなりません。逆に、その遺伝子を持っていなくても1000人に100人は糖尿病にかかります。また、薬の副作用に関しては危険因子を持っているとリスクは10-20倍、あるいは、100倍になりますが、これもある遺伝子を持っていても、1要因だけでは必ずなるとは限りません。生活習慣を改善することや生活環境を変えることにより病気を未然に防いだり、重症化を回避できる可能性があるのです。別の言い方をすれば、予防のための自己管理 ― 自分のからだを自分で守ること ― をエビデンス(科学的根拠)にもとづいて行っていくことができるわけで、これは本プロジェクトの長期的目標です。
このように本プロジェクトで求めている遺伝的危険因子は、ひとつだけでは死の宣告や社会的差別につながるような大きな要因になる可能性は小さいものです。イギリスで保険の問題となっているような決定因子とは質的に大きく異なるのだということをご理解いただきたいと思います。

最後にイギリスでの動きは世界各国の対応とは逆のものであり、遺伝情報が生命保険の現場で利用されることを初めて認めた国となっていることを補足いたします。WHO(世界保健機関)の遺伝サービスガイドラインでは「遺伝情報や検査の結果は、生命保険を含むあらゆる保険の加入時の要件となるべきでない」とされ、オランダ、フランスやアメリカの州の大半が、医学・医療目的以外の利用を原則禁止する方向で遺伝子差別の防止を図ってきました。アメリカでは2000年2月にクリントン前大統領が遺伝子情報での差別を禁止する大統領令に署名し、「何人も遺伝子をもって差別してはならない」という宣言を行っていますし、「遺伝情報による差別を禁止する法案」がこの2003年10月15日に95対0(棄権5)で上院を通過しました。この法案には遺伝子差別を行った場合の罰則規定も盛り込まれています。今後の下院における審議を経てこの法案が成立すればアメリカでは、遺伝情報による雇用、健康保険の差別が国の法律として禁止されることになります。本プロジェクトでは、日本においてもこのような対応が必要と考え、遺伝情報の悪用を抑止する法律の整備や、個人個人の違いを認め合える教育への改革の必要性をシンポジウム、ホームページ、マスコミからの取材などを通じて訴え続けています。

 

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ゲノム研究バイオバンク事業 バイオバンク・ジャパン(BBJ)

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