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[プレスリリース] 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発症メカニズムに新たな知見

2023.11.30

ニュースプレスリリース

バイオバンク・ジャパンが保有する試料・情報を用いた研究成果が、国際科学誌Nature Geneticsに掲載されました。バイオバンク・ジャパンの研究者である東京大学大学院新領域創成科学研究科の鎌谷洋一郎教授らの研究グループは、日本人集団と欧米系集団を統合する大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)[1] により、胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の発症に関連する25カ所の新たな遺伝的座位を同定しました。また一細胞トランスクリプトーム解析[2] などのデータを組み合わせることで、胃の修復過程における消化管細胞の分化および、胃酸分泌を促す主要なホルモンであるガストリンとその受容体との連携が、消化性潰瘍の形成に重要な役割を果たしていることが示唆されました。
消化性潰瘍は日本を含む東アジアで有病率が高いと報告されている疾患です。この研究成果を利用してポリジェニック・リスク・スコア(PRS)[3] の構築が可能であり、将来的には消化性潰瘍に遺伝的になりやすい体質であるかどうかを一定程度予測し、予防することで医療費削減につながることが期待されます。

<原著論文>
https://doi.org/10.1038/s41588-023-01569-7

詳しくは、東京大学医科学研究所(日本語記事)と、東京大学UTokyo Focus(英語)によるプレスリリース記事をお読みください。
日本語 https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/papers/page_00175.html
英 語 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00321.html

用語解説

[1]ゲノムワイド関連解析(GWAS): ヒトゲノムの全域に分布する一塩基多型(SNP)等の遺伝的バリアントと、病気などの形質との因果関係を網羅的に検討する遺伝統計解析手法。単一遺伝子によらない複雑な疾患の解析に用いられる。これまでに、数百を超える形質や病気を対象に実施され、数多くの関連遺伝子が同定されている。
[2]一細胞トランスクリプトーム解析: トランスクリプトームとは、転写産物(mRNA)の総体情報のこと。一細胞トランスクリプトームは、一細胞シークエンス技術により得られた細胞一個ごとの転写産物RNA量総体を得ることによって、細胞ごとの遺伝子の働きを網羅的に解析する技術。データはUMAPと呼ばれる機械学習技術により細胞集団ごとに可視化することができる。
[3]ポリジェニック・リスク・スコア(PRS): いわゆる遺伝病が一つの遺伝子の変異によって起こるのに対し、胃・十二指腸潰瘍を含むありふれた疾患の多くは非常に多数の遺伝因子が蓄積し、さらに環境因子も作用して発症すると考えられている。この時、多数の(ポリ-)遺伝因子(ジェニック)からその疾患の発症に関するリスク・スコアを計算することができ、これをポリジェニック・リスク・スコア(PRS)と言う。ベイズ統計学に基づく手法など、様々な手法がある。