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2023.2.1
がん(分類)研究成果のご紹介
理化学研究所、北海道大学などの研究グループによる、バイオバンク・ジャパンと北海道大学病院で集められた胆道がん患者さんの試料を使った研究から、胆道がんの発症リスクを高めるような遺伝子の変化が複数、見つかりました。
見つかった変化の多くは、 DNAの傷を修復する仕組み(DNA修復機構)に関わる遺伝子のなかで起きており、 DNA修復機構がうまく働かないことが胆道がんの発生に関与していることがわかりました。すでに他の部位のがんではDNA修復機構がうまく働かない場合の治療が日本でも行われており、DNA修復機構が働かない胆道がんの患者さんにもそれらの治療の効果があると期待されます。胆道がん患者さんの全員が今回見つかった遺伝子の変化をもつわけではなく、また、仮に遺伝子の変化が要因となった発がんであっても、要因となる変化は複数あるため、患者さんごとに持っている遺伝子の変化は違い、それによって治療の方法なども異なることが予想されます。
今回の研究成果は、胆道がんの診断や患者さん一人ひとりに合わせた治療法の選択、さらには発症のリスク診断・予防への活用につながるものと期待されます。
世界的に見ると珍しいがんでも日本では
胆道がんは、腫瘍ができる部位から肝内胆管がん、胆嚢がんなど大きく5つに分けることのできるがんの総称です。2017年の統計によると、日本では年間約22,500人が発症、約18,000人が亡くなっていて、6番目に死亡数が多いがんとなっています。胆道がんは日本をはじめとするアジアでの症例数は少なくありませんが、世界的に見ると珍しいがんです。これは、欧米系集団を中心とした海外の研究では、患者さんの数が少なく、原因となる遺伝子の変化を見つけにくいことを意味しています。
具体的にどうやって見つけたのか
理化学研究所と北海道大学などの研究グループは、胆道がんの患者さん1,292人と、比較対照のための患者ではない37,583人の試料を使ってDNAの塩基配列を調べました。まず、調べたのは、遺伝性のがんに関連するとされている27個の遺伝子です。
調べた27個の遺伝子からDNAレベルでの個人差として5,018個の変化している箇所が見つかりました。こうした個人差のすべてが病気にかかわるわけではないので、さらに解析したところ、そのうち317個は病気のリスクを高める変化であることがわかりました。このような病気にかかわる変化を「病的バリアント」と呼んでいます。
見つかったDNAの変化とがんとのかかわり
胆道がん患者さん1,292人のうち5.5%にあたる71人にはこうした病的バリアントがあり、そのせいで胆道がんへのなりやすさが約4.1倍に高まっていました。これらの患者さんの特徴として、発症年齢が若い、本人や血縁者が乳がんになったことがある、胆道がんの中でも肝内胆管がんの例が多いなどがありました。一方で、患者さんが治っていくかどうかといった病気の経過に関しては、病的バリアントをもつ患者さんとそうでない患者さんとで違いは見られませんでした。
遺伝子ごとに見ると、その遺伝子に病的バリアントがあれば乳がんや卵巣がんなどのリスクを高めることが知られているBRCA1、BRCA2、PALB2という遺伝子、大腸がんのリスクが高まるAPC、MSH6という遺伝子が胆道がんにも関わっていることがわかりました。
傷ついたDNAを直すメカニズム
DNAの配列は、細胞が分裂するたびに、あるいは放射線や紫外線、特定の化学物質にさらされたりすると変化することが知られています。これは日常的に頻繁に起きていることですが、多くの変化は無害であるうえに、身体にはこうした変化をもとに戻すDNA修復機構が備わっています。上に挙げた5つの遺伝子のうち乳がんや卵巣がんとの関連が知られている3つの遺伝子は、こうしたDNA修復機構を担う遺伝子です。
これらの遺伝子は父と母から1本ずつ受け継ぎ、合計2本を持っています。2本ともに病的バリアントがあるということはほとんどなく、通常はあったとしても1本だけです。しかし、日々の生活を送っているうちに日常的に生じている遺伝子の変化が、たまたま、もう1本の方に生じてしまうことがあります。こうなると、DNA修復機構がうまく働かなくなることがあります。このような場合、日常的に生じるDNAの変化を直せなかったり、直す効率が下がったりして、DNAに変化がたまることが予想されます。
患者さんの組織で起きていたこと
この考えを確かめるために、今度は北海道大学病院での手術で切除した52例の胆道がんの組織と正常組織から DNAを取り出し、ゲノム全体を詳しく調べました。DNAを修復するメカニズムがうまく働かないと推測できる胆道がんの組織からは、そうでない胆道がんの組織に比べて、染色体レベルの変化など比較的大きな変化が多いことがわかりました。また、BRCA1やBRCA2の1本に病的バリアントがあっても、もう1本に病的バリアントがなければ、このような傾向はありませんでした。
前述したように、今回の5つの遺伝子は乳がん、大腸がんなどほかのがんでも関連が知られています。そして、BRCA1、BRCA2 遺伝子の病的バリアントに対してはそれに対応した薬が開発されています。こうした病的バリアントが原因でDNA修復機構がうまく働かない状態になっている乳がんや卵巣がんの患者さんに対しては、 日本でも保険適用されている薬があります。胆道がんでも、同じ遺伝子の変化のためにDNA修復機構がうまく働かなくなっているタイプでは、効果があるかもしれません。
この成果は、理化学研究所生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダー、北海道大学大学院医学研究院の平野聡教授らからなる研究グループによるもので、その成果は国際誌 Journal of Hepatologyオンライン版(2022年10月12日付)に発表されました。
理化学研究所によるプレスリリース
https://www.riken.jp/press/2022/20221201_3/index.html
成果を発表した論文(英語)
Hereditary cancer variants and homologous recombination deficiency in biliary tract cancer
※[研究成果のご紹介]では主に試料・情報をご提供いただいた協力者のみなさま向けに、これまでのBBJが関わる研究成果を分かりやすくご紹介しています。