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2023.7.18
研究成果のご紹介腎・尿路系疾患(分類)
ひんぱんにトイレに行きたい、尿意を我慢できない──こうした悩みをもつ中高年の女性は少なくありません。その多くは下腹部の筋肉を意識した筋トレなどで良くなったりしますが、なかには膀胱や尿道に強い痛みがあったり、膀胱内の粘膜にただれのような異常が生じることがあります。
「間質性膀胱炎(ハンナ型)」と呼ばれるこうした疾患は、細菌感染による一般的な膀胱炎ともまったく異なる病気で、根本的な治療法もまだありません。重症の場合には国の指定難病にもなっています。これまで、遺伝的になりやすい要因があるのかどうかもよくわからずにいましたが、東京大学、大阪大学などの研究グループは、免疫系の要となる分子の特定の型が、この疾患の発症とかかわっていることを見つけました。この発見は、どのようにしてこの疾患が進むのかの理解や治療法の開発につながると期待されています。
この研究を行った東京大学、大阪大学などの研究グループは、東京大学医学部附属病院に通っている間質性膀胱炎(ハンナ型)の患者さん114人とバイオバンク・ジャパンのこの疾患ではない41,516人のゲノム情報を解析したところ、免疫系で要となるヒト白血球型抗原(HLA)というタンパク質の遺伝子の配列にある特定の違いと発症との間に関連があることがわかりました。
※ヒトではHLA(ヒト白血球型抗原)と呼びますが、マウスなどではMHC(主要組織適合性抗原遺伝子複合体)と呼び、ヒトでもMHCを使うこともあります。
HLAは細胞の表面にあって、免疫反応のスイッチを入れるようなタンパク質です。ホットドッグ用のパンのように真ん中に溝がある構造をしていて、ふだんは自分に由来するタンパク質の断片をホットドッグのソーセージのように挟んで、表面に掲げます。これが「自分」という目印になっています。しかし、細菌やウイルスなどに感染されたり、がん細胞になったりすると、これらのタンパク質の断片を挟んで細胞の表面に掲げるようになります。するといつもの「自分」ではなくなるため、免疫細胞はこれを身体にある異物と認識して攻撃します。これが免疫反応です。通常、免疫細胞は「自分」を攻撃しませんが、何らかの理由で自分を攻撃してしまうことがあります。こうして起きる疾患をまとめて自己免疫疾患と呼んでいます。
研究グループは今回の解析で、間質性膀胱炎(ハンナ型)に関係したHLA遺伝子の配列の違いを4カ所見つけましたが、うち3カ所は変異のせいでHLAの溝の部分の形が少し変わることが推測できました。間質性膀胱炎(ハンナ型)の患者さんはほかの自己免疫疾患を併発していることが多いことも医療現場での観察から指摘されています。これらのことから、これまでわかっていなかった間質性膀胱炎(ハンナ型)の発症のメカニズムに、何らかの形で免疫反応がかかわっていることが強く示唆されています。この研究成果を出発点として、病気の進み方が解明され、治療法の開発につながっていくかもしれません。
東京大学によるプレスリリース
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/20230719.html
※[研究成果のご紹介]では主に試料・情報をご提供いただいた協力者のみなさま向けに、これまでのBBJが関わる研究成果を分かりやすくご紹介しています。