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2023.8.23
がん(分類)研究成果のご紹介
がんになるリスクは遺伝要因と環境要因に分けられますが、前立腺がんは、さまざまながんの中でも遺伝要因がかかわる割合が最も大きいことが知られています。
理化学研究所、静岡県立病院などの研究グループは、前立腺がんの遺伝要因として、男性ホルモンのアンドロゲンが遺伝子のスイッチを入れるときにかかわる領域が大きく関与していること、また発症前でも、将来的な前立腺がんによる死亡リスクを予測することに、ポリジェニックリスクスコアという指数が役立つことを明らかにしました。
前立腺がんは日本人男性では新たに診断される患者数が最も多く(2019年)、死亡者数は7番目に多いがんです(2020年)。早期に治療を開始できれば5年生存率は100%に近いものの、早期は自覚症状がないため、発見が遅くなってしまうことがあります。今回の成果は発症前から使える指標になるため、将来的に前立腺がんの早期発見・早期治療の実現に役立つと期待されます。
研究グループはバイオバンク・ジャパン(BBJ)に登録された前立腺がん患者8,645人と患者ではない89,536人のゲノムを解析し、32の発症にかかわる領域を見つけました。さらにすでに報告されているヨーロッパ系集団、アフリカ系集団、東アジア系集団、ヒスパニック系集団の解析結果と今回の結果を統合し(患者107,218人、対照群197,733人)、より高い精度で171の領域を特定しました。
研究グループ が注目したのは「アンドロゲン受容体結合領域」です。前立腺がんに関わる変異として見つかった複数の変異が、この領域のなかに位置していることが明らかになったのです。精巣で作られたアンドロゲンが前立腺の細胞表面にあるアンドロゲン受容体に結合すると、結合したまま細胞の中、さらには核の中へと入っていき、ゲノムDNAの「アンドロゲン受容体結合領域」に結合します。すると、横にある遺伝子がスイッチ・オンの状態になります。前立腺がんに関わる変異の多くがこの領域にあったというのは、治療薬にはアンドロゲンを標的にしたものが多いという点からも納得できるものです。
さらにBBJ に参加した時には前立腺がんと診断されていなかった男性のデータを使って、見つかった複数の関連領域からリスクを見積もる「ポリジェニックリスクスコア(PRS)」という解析法で、前立腺がんによる死亡リスクを予測できるかどうかを調べました。その結果、アンドロゲン受容体結合領域に着目したPRS解析では、この値の高さが上位10%に入る人は下位50%の人よりも発症までの時間を加味した死亡リスク が 5.57倍高いことがわかりました 。この結果からPRSで将来的な前立腺がんによる死亡リスクを予測できる可能性が示されました。
この研究は理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの伊藤修司客員研究員(島根大学医学部附属病院)、寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院)、東京大学大学院の鎌谷洋一郎教授らによる成果で、Nature Communications誌に2023年8月に発表されました。
理化学研究所によるプレスリリース
https://www.riken.jp/press/2023/20230823_2/index.html
※[研究成果のご紹介]では主に試料・情報をご提供いただいた協力者のみなさま向けに、これまでのBBJが関わる研究成果を分かりやすくご紹介しています。