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2024.7.31
その他(分類)研究成果のご紹介
女性の細胞にはX染色体が2本ありますが、男性には1本しかありません。この男女でのX染色体の本数の違いは、X染色体にある遺伝子からつくられるRNAやタンパク質の量(発現量)の違いにつながります。これを補正するために、女性やメスの細胞では、どちらかのX染色体がはたらかなくなる「X染色体不活性化」ということが起きています。ただ、X染色体にある遺伝子の約10〜20%では、X染色体不活性化が不十分で、部分的に発現していることも知られています。これが「X染色体不活性化(XCI)からの逃避」と呼ばれる現象です。これが実際につくられるタンパク質などの量の違いとなり、一部の疾患での発症の男女差につながっていると考えられています。
大阪大学、東京大学などの研究グループは、「XCIからの逃避」を個々の細胞ごとに量ることができるソフトウェアsingle-cell Level inactivated X chromosome mapping (scLinaX)を開発し、これを使って実際に「XCIからの逃避」がどんな種類の細胞でどの程度起きているのかを調べました。
単一の細胞ごとのRNA発現を解析した大規模データを複数、用意し、scLinaXで調べたところ、白血球の一種であるリンパ球系の細胞で「XCIからの逃避」が強く生じていることがわかりました。さらに、バイオバンク・ジャパンとUKバイオバンクのデータを使って詳しく調べたところ、「XCIからの逃避」が認められたある特定の遺伝子の発現量を調節している領域での遺伝子多型が、リンパ球の数と関連していることがわかりました。そして、その効果は男性よりも女性で強かったのです。つまり、同じ遺伝子多型をもっていても、リンパ球の数の多さとして現れる影響は男性よりも女性の方が大きいことになり、それをもたらしているのは「XCIからの逃避」である可能性を示しています。
本研究で開発したscLinaXは、遺伝子発現や体質、そして疾患や生命現象に関わる性差の解明への基盤となることが期待されます。
大阪大学によるプレスリリース
https://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/20240731-0100.htm
成果を発表した論文(英語)
Quantification of escape from X chromosome inactivation with single-cell omics data reveals heterogeneity across cell types and tissues
[研究成果のご紹介]では主に試料・情報をご提供いただいた協力者のみなさま向けに、これまでのBBJが関わる研究成果を分かりやすくご紹介しています。