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2024.1.4
研究成果のご紹介神経・精神疾患
うつ病は、世界で約2億8000万人[1]が患っているといわれる非常に一般的な精神疾患で、患者の気分や思考だけでなく身体全体に影響を及ぼし、日常生活に支障をきたすケースもあるため、世界的な公衆衛生の課題となっています。原因としては、遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の影響などが指摘されています。うつ病の遺伝要因の解明を目指した研究としては、これまで主にヨーロッパ系集団を対象としゲノムワイド関連解析(GWAS)が行われてきましたが、多様な祖先を持つ集団を対象とした大規模な解析研究は行われていませんでした。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、東京大学などの国際共同研究グループは、東アジア系(26%)、アフリカ系、南アジア系、ヒスパニック/ラテンアメリカ系集団という多祖先からなる88,316人のうつ病患者と902,757人の対照群のデータで大規模なGWASを実施しました。この解析には、英国のUKバイオバンクと、バイオバンク・ジャパンの登録者のゲノムデータと臨床情報が使われました。また過去のヨーロッパ系集団を対象とした研究結果と今回の多集団の解析データを組み合わせたメタ解析も行われました。
その結果、従来のヨーロッパ系集団だけでの解析研究では見えなかったうつ病のリスク要因をより正確に特定できました。具体的には、新たに53のうつ病に関する遺伝子の領域が見つかりました。またトランスクリプトームワイド関連解析(TWAS)により、遺伝子発現によって実際にうつ病のリスクに影響を与える可能性が高い205の遺伝子が新たに示されました。過去にヨーロッパ系集団で見つかったうつ病にかかわる遺伝子領域が、必ずしも今回の多集団には適用できないことも明らかになりました。
今回の研究により、うつ病の一般的な遺伝的背景がより明確になり、集団の多様性を考慮した研究の重要性が示されました。
図: うつ病のTWASにより示された遺伝子領域
Reproduced from Meng, X., Navoly, G., Giannakopoulou, O. et al. Multi-ancestry genome-wide association study of major depression aids locus discovery, fine mapping, gene prioritization and causal inference. Nat Genet 56, 222–233 (2024), under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license
[1] “Depressive disorder” WHO(世界保健機構)2023-3-31 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/depression
[研究成果のご紹介]では主に試料・情報をご提供いただいた協力者のみなさま向けに、これまでのBBJが関わる研究成果を分かりやすくご紹介しています。