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[Features]DNAと私② 「DNA – さらなる理解、次世代にむけた研究発展と正しい利用」  森崎 隆幸 

2025.4.23

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私は1970年代に大学時代を過ごし、医師になりました。当時、DNAの重要性への認識が高まりつつあり、大学の講義でもDNAについて熱心に教えられていたことを記憶しています。私がこの分野に深くかかわるようになったのは、当時の指導教官に良い臨床医は基礎研究の上に成り立っていることを教えられ、研究を始めるようになってからです。診療のかたわら先天性疾患(遺伝病)についての研究に携わり、既に細菌や動物で明らかになった遺伝子からタンパク質が作られる仕組みから、人間でも遺伝子の変化が病気に関係するとして注目されるべき事を知りました。医学にとっても遺伝子DNAは重要であると再認識し、病気の原因となる遺伝子やその変化を見つけて、ありふれた病気についても診療や治療に結びつけたいとの思いで、研究を続けました。

1987年に病気の原因となる遺伝子の変化とその働きを明らかにする研究に参加するため、アメリカに留学しました。当時はまだヒトの遺伝子配列は簡単に解明できない時代で、まず、マウス・ラットの、ついでヒトの遺伝子を明らかにしてその働きを知る研究に携わりました。1994年に帰国後は、病院の外科医師や研究所の若い研究者や学生の協力を得て、稀な病気の原因となる遺伝子DNAを検討し、細胞・マウスなどの動物を使った実験で遺伝子DNAの働きと病気との関係をさらに明らかにする研究を行いました。1500人を越える患者さんの協力を得て行った遺伝子DNAの研究は、2016年に東京に戻る時期に、遺伝学的検査として保険診療に活用されるようになりました。

私は研究者としてDNAを研究に利用するとともに、DNAの研究と倫理的社会的課題との関係が重要であることを認識し、国内の会議、さらに国外UNESCOの会議で人文・法学研究者との交流や提言作成を行い、ヒトゲノム・DNAを扱う際の社会的・倫理的側面に関する議論に20年以上関わってきました。現在は、バイオバンク・ジャパンでDNAを保管・管理し、研究利用を促進してゲノム医療の進歩を下支えする立場で活動しています。

1953年にDNAの二重らせん構造を発見したワトソンとクリックは、研究者として非常に着眼点に優れ、自身のユニークな認識を検証したという部分で尊敬します。そして今に至る短い期間の間のゲノム研究の進歩には、目覚ましいものがあります。「DNAの日」は、この日を境に何かが変わるのではなく、改めてゲノムDNA情報や研究手法が、人のためになるように使われることを再認識する日だと思います。DNAは人間だけではなく生命体すべてが共通に持ち、その複製により生物機能の維持そして次世代への橋渡しとして根源的なものです。DNAにより様々な生命現象の説明がつくことを思えば、より理解を進めて、次世代に向けて研究が発展し、正しく利用されるべきであると認識することが、この日の意義であろうと思います。

森崎 隆幸  MORISAKI Takayuki

東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 特任教授
東京大学医科学研究所バイオバンク・ジャパン 事務局長 / 附属病院内科 客員教授

1980年東京大学医学部医学科卒業。1986年医学博士。産業医科大学病院、三井記念病院、東京大学医科学研究所附属病院等を経て、1987年に米デューク大学医学部内科に留学。1991年より米ペンシルベニア大学医学部内科 助教授。1994年に帰国後、国立循環器病センター研究所バイオサイエンス部 室長、同部長を経て2016年より東京工科大学医療保健学部臨床工学科 教授。2018年より東京大学医科学研究所 特任教授。2021年より東京大学医科学研究所 附属病院内科 客員教授。2023年より東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 特任教授。

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