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[Features]DNAと私④ 「サンガー研究所とオープン・サイエンス」 熊坂 夏彦 

2025.4.23

FeaturesTOPICSコラム

フレデリック・サンガー博士(1918〜2013年)は英国の生化学者で、2度のノーベル化学賞を受賞しています。そのうちの1つは、今日でも科学者に広く利用されているDNA配列決定法「サンガー法」を開発した功績によるものです。そんな彼の名前を冠した研究所、ウェルカム・サンガー研究所は英国ケンブリッジ州のはずれにあるヒンクストンという小さな町にあります。私は2012年~2021年までサンガー研究所に勤務し、オープン・サイエンスの精神を直接肌で感じる経験をしました。

この研究所の初代所長であるジョン・サルストン博士(1942〜2018年)は、線虫のDNA配列を解読した功績を評価され、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。サンガー研究所は、サルストン博士の指揮のもと、「ヒトゲノム計画」における大規模なヒトDNA配列の解読を主導しました。30億塩基あるヒトのDNA配列の実に約3分の1がサンガー研究所で解読されたものです。彼は当初から、この計画によって創出されるDNA情報に誰もが無償かつ自由にアクセスできることの重要性を主張していました。この原則に基づいて、「ヒトゲノム計画」では全ての成果が一般に公開され、研究者間で他に類を見ない国際的な協力が促進されたのです。

2003年にヒトのDNA参照配列が決定され、私たちはゲノムの地図を手に入れました。それから20年の時を経て、私たちの病気のなりやすさや生活習慣など、ありとあらゆる特性に影響を与える遺伝子座が次々と同定されています。今日それが可能であるのは、ヒトDNA配列という人類共通の資産が、まるで空気を吸うかのように利用できる社会を先人たちが築き上げてきたからです。4月25日は、「DNAの日」。過去の偉大な科学者たちの功績に思いをはせながら、この特別な日を過ごすことにしましょう。

熊坂 夏彦 KUMASAKA Natsuhiko

東京大学医科学研究所 デジタル・ゲノミクス分野 教授
国立研究開発法人国立成育医療研究センター エコチル調査研究部 チームリーダー

2003年慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業。2007年同大学院理工学研究科基礎理工学専攻修了 博士(理学)取得。ウェルカム・サンガー研究所(英国)Principal Bioinformaticianを経て、2024年より現職。

「DNAと私」 

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